へなちょこ魔女は、ぎんいろの瞳に恋をする
「はぁ……どうしよう、ピーちゃん。23時を過ぎて脱走すれば、エリノア寮長が部屋に来たときに私はその場にいるから怪しまれることはないんだろうけど…」
脱走場所である1階のトイレにたどり着くまでには、1階の中央に位置する食堂を経由しなきゃ通れない。
だけどエリノア寮長が見回りを終えた23時過ぎには、食堂に入れる2つの扉は施錠されてしまうから1階のトイレにはたどり着くことができなくなる。
これは難しい問題だ。
エリノア寮長が部屋に見回りに来るのを待ってから行けば、トイレから脱走するのは不可能だ。
外から部屋に戻るときのように、魔法を使えば施錠された扉を開けることはできるけれど。
23時だとサマラさんはまだ起きている時間だろうから、魔法を使ったりなんかすれば脱走に気付かれそうで怖い。
だったらやっぱり、エイミーに謝って協力を仰ぐしかないか。
でもしばらくはエイミーとは話したくない。
エイミーなんかに、私の気持ちはわからないだろう。
私がどれほどルキを想っていて、どれほどルキと離れ離れになってしまうことを恐れているのか。
私はルキに命を救われた。
魔獣に襲われていたとき、ルキがあの場にいて私を救ってくれなかったら私は間違いなく、魔獣に殺されていた。
きっと私はルキに命を助けられたその瞬間から、ルキのことを好きになっていた。
そしてルキの優しさに触れるたびにその想いは膨らんでいって。
気付けばルキのことを目で追っていて、何をしていても頭の中はルキでいっぱいで。
私にとってそれははじめての感覚で、ルキとの出会いはまさしく運命だって思っていた。