へなちょこ魔女は、ぎんいろの瞳に恋をする
私が小窓から脱走をはかろうと窓枠に手をかけると、ドアの向こうから「ここの人遅いなぁ」という初等部の子の幼い声が聞こえる。
ああ……ごめんね。
ここのドアは私が寮を抜け出しているしばらくの間、鍵を開けることができなくなるからなんだか申し訳ない。
「早くしてよぉっ‼」
心の中で必死に謝りながらも、後ろめたさを感じつつ小窓から外に出た。
足が地面につくと、ルキと待ち合わせしている白い小道の外灯の下まで走った。
今宵は満月。
満月の光を浴びた魔獣は普段よりも強く、獰猛になってしまうから、こんな夜は絶対に外を出歩いてはいけないことを知っている。
それでも私はルキに会うために、薄気味悪い森を視界に入れないようにして走った。
外灯の下にまだルキの姿はない。
私はいつ魔獣に襲われてしまうかわからない恐怖に駆られながらも、外灯の下でルキを待つことにした。
「……ん?あれは…レックスさん?」
怖いなぁ、なんて思いながらちらりと森を見てみると、森の前にレックスさんらしき人影があることに気がついた。
レックスさん……今日も話せる龍の魔獣を探しているのかな。
私の存在にはまるで気付いていないみたいだ。
それにしても、森の前に立って両手を広げて何をしているのだろう。
レックスさんの行動が気になった私は、外灯の下を離れレックスさんの元へ歩きはじめた。
私が一歩、また一歩と距離を縮めてもレックスさんはまだ私には気付かない。
何か集中して魔法の詠唱でもしているのだろうか。
レックスさんから放たれる高い魔力の影響か、地を踏みしめるたびに全身にびりびりとした痺れが走る。