へなちょこ魔女は、ぎんいろの瞳に恋をする
近付いてみると、レックスさんの両手のひらから黒い煙のようなものが出ていることに気がついた。
なんだろう。
あの火事のときにあがるような、もくもくとした黒煙。
もしかしてこれから魔獣を出そうとしている…?
そんな私の予想は見事に的中して、両手を広げたままのレックスさんの前には、ゾウほどの大きさの犬のような魔獣が現れた。
犬のような魔獣はぐるぐると唸り声をあげながら、創作主であるレックスさんの前に前足を揃えて座った。
レックスさんは大きな犬を見上げながら「よし、森の周辺で隠れている龍の魔獣を探して来い」と指示をだした直後、犬は「わかった」とばかりに立ち上がった。
やっぱり凄いなぁ、レックスさんは。
あんなに大きくて強そうな魔獣を簡単につくれて。
レックスさんは犬の他にも、10メートルはありそうな大蛇もつくり、同様に「龍の魔獣を探せ」と指示を出している。
犬の次は大蛇か。
大きな魔獣を連続で2体もつくれるなんて、レックスさんの魔力はいったいどれほどのものなんだろう。
遠目から巨大な犬と蛇を眺めていると、ふと気付いてしまった。
そういえばあの大きな犬は、以前に森で遭遇した凶暴な魔獣にそっくりだ。
それに大蛇だって、昨夜ルキが倒した魔獣に似ている。
もしかして、あの凶暴な魔獣たちはレックスさんがつくった……?
そんな疑問が浮かんだときだった。
「途中で人間に出会ったら殺せ」
レックスさんの感情のない声が、静寂な夜に冷たく響き渡った。