へなちょこ魔女は、ぎんいろの瞳に恋をする
ルキが魔獣だなんてどうか嘘であってほしいという私の願いは、ルキが首を縦に振ったことで粉々に砕かれてしまった。
「そんな……まさかルキが魔獣だっただなんて」
ルキが記憶を失ってしまった理由は、自身の持つ『記憶を消す魔法』を、自分で自分にかけてしまったからだったんだ。
だからルキは自分が魔獣だということも忘れてしまい、人間に変身して人間としてこれまで過ごしていたということか。
すべては10年前の、私の誕生日からはじまった悪夢。
パパとママを殺してしまったことへの罪悪感に耐えることができなかったルキは、校長先生の後押しもあってレックスさんのもとを離れた。
そして記憶を消す魔法を自分にかけて、私たち家族を襲った記憶を失うことで、罪の意識から逃れたかったんだ。
そうか、そういうことか。
誰かを守るためだけに生み出されたと言っていたのは、ルキは魔獣だから。
助けることは当たり前だけど、助けられることには慣れていないと言っていたのも、魔獣だから。
校長先生がルキとはじめて会ったとき、はじめて会ったような気がしないと言っていたのは、ルキが息子のレックスさんの魔力からつくられた魔獣だったから。
湖のほとりで共に過ごしていた大切な人というのは、創作主であるレックスさんのことだったんだ。
「メイベル……本当にごめん。謝っても許されることではないことはわかってる。せめてもの償いとして、メイベルのご両親の仇を俺に討たせてほしい」
「仇を討つって……何をするつもりなの?」
「俺がレックスさんを殺す」
ルキは私の両手を包み込んでいた手を離すと、さっと立ち上がりレックスさんが消えて行った森に強い眼差しを送った。