へなちょこ魔女は、ぎんいろの瞳に恋をする
「ねぇ……本当にルキなの?」
宙に浮かんで私を見下ろしているのは、これまでに見たどの魔獣よりも大きかった。
それにこれまでに感じたことのないほどの、高い魔力が空気を通してひしひしと伝わってくる。
それでも何故か恐怖心をまるで抱かないのは、私を見下ろしている龍の銀色の瞳が優しかったから。
ルキに見つめられているような、そんな気がしたから。
「待ってよルキ……いかないで」
龍は私の問いかけに答えることはなかった。
視線を私から逸らすと、風のような速さで勢い良く森の中へと消えていく。
涙がはらはらと頬を伝う。
夢にも思ってもいなかった。
まさかルキが魔獣だったなんて。
10年前のあの日、天井を突き破って現れた魔獣がルキだったなんて。
パパとママを殺した魔獣こそが、ルキだったなんて。
パパとママを殺した魔獣と、そんな魔獣をつくった魔法使いを私は長年恨んで恨んで、恨み続けていた。
いつか必ず私の手でパパとママの仇を討ってやるって、その思いだけで魔法を必死に練習した。
……それなのに、ルキこそがパパとママを殺した魔獣だと知ってしまっても、私の中からルキを想う好きの気持ちは少しもなくならなくて。
お願いだからいかないでほしい。
消えたりなんかしないでほしい。
そんな思いばかりが溢れて止まらない。