へなちょこ魔女は、ぎんいろの瞳に恋をする
「おいっ、万年最下位っ‼そんなとこで何やってんだよ!」
森に向かって走り出した足を止め振り返ると、男子寮からこちらへ歩いてくるライザの姿が見えた。
そうか、もうライザと会う約束をしていた0時になったのか。
時計を持ってきていなかったから時間の間隔がまるでわからなかったけど、いつの間にか2時間も経過していたのかと驚いた。
ライザは森の前で立ち止まる私のそばまで来ると「まさか森に入るつもりだったのか?」と、訝しげな顔で問いかけてくる。
かと思えば「えっ⁉つーかなんで泣いてんだよ⁉」と、ぎょっと目を見開き慌てはじめた。
「ごめん……ライザ。私、どうしてもルキを追いかけなきゃいけないの」
「はぁ?ルキ⁉って……あのクソ転校生か?」
「見張り役になるって約束したのに、本当にごめん」
ライザの言葉も待たずに踵を返した私は、暗い森の中へ走り出した。
「あっ、おいバカ‼お前ひとりで森に入るなんか危険すぎんだろーがっ‼何考えてんだよ、早く戻って来い!」
後ろから私を呼び止めようとするライザの声が聞こえたけれど、返事もしなければ振り返ることもなく走った。
昼間でも夜のように薄暗い森の中は、夜になるとどこに木が生えているのかすらも、うんと近付かなければわからないほど暗闇に満たされている。
私はライザの姿が見えなくなったところで立ち止まり、足元に転がり落ちていた木の棒を拾いあげた。
「神より与えられし力よ、我が糧となれ。その力を今解放する」
木の棒を右手で持ちながら、魔法を唱えた目的は足元を照らす松明をつくるためだ。
木の棒にぼうっと火がつくと、周辺はオレンジ色の仄明かりに照らされ、幾分か歩きやすくなった。