へなちょこ魔女は、ぎんいろの瞳に恋をする
それでも私は、牙を剥き出しにするルキから目を逸らさなかった。
「それなら一緒に帰ろう、ルキ。パパとママの仇討ちはもうやめるから」
レックスさんのことを許したわけではない。
ただ、復讐をしたところで私の中からパパとママを殺された憎しみや寂しさや、辛さが消えるわけではないのだから。
私がレックスさんを殺してしまえば、校長先生はきっと悲しむだろう。
そうやって誰かが死んでしまえば、また別の誰かが悲しむわけで。
死には死をもって償っても、悲しみはひたすら連鎖を繰り返していくだけで消えることはないのだ。
私のかわりとなってパパとママの仇を討つと言ったルキの悲しそうな顔が、復讐したところで幸せになんかなれないことに気付かせてくれた。
レックスさんを殺すと言ったルキもまた、レックスさんのことを大切な人だと話していたから、そんな彼を自らの手で傷つけるのだって辛いはず。
「復讐なんかやっぱりやめる。本当はレックスさんなんて殺してやりたいくらい憎いけど、復讐をしたところでパパとママは喜ばないって気付いたの。レックスさんにはたくさんの命を犠牲にしてしまったことを、魔導警察署の独房の中で反省してもらいたいと思ってる」
魔導警察署とは、優秀な魔法使いのみが勤務している警察署。
魔法を使って犯罪を犯した人が収容される牢獄もある。
レックスさんが魔獣を使って何の罪もない人の命を奪ったことを反省してもらいたいのと、またパパとママのような犠牲者がでないようにしたい。