へなちょこ魔女は、ぎんいろの瞳に恋をする
「……魔獣かぁ」
今回テストに出題される範囲の中でも出てくる『魔獣』といえば、以前に私も遭遇したことがあるのをふと思いだした。
それは私がまだ10歳のとき。
レンガ調の外壁がおしゃれな学園寮の付近の森で、友達と遊んでいたときのこと。
『あっ、寮に忘れ物してきちゃった。ちょっと待っててね、メイベル。すぐ戻るから、それから森でリスを探そうね!』
『うん、わかった。早く戻ってきてね』
リスのエサを取りに行くらしく、寮に向かって走り去って行く背中をぼーっと眺めていた。
早くリスを捕まえてナデナデしたいなぁ。
なんて目を輝かせながら、森を眺めていた。
なんだか急に背筋がぞわりと寒くなってきて、背後から嫌な気配がしたんだ。
すぐに振り返って見ると、いつの間に後ろにいたのは…。
大きくて真っ黒で、目や鼻口はなく、まるで煙のような姿をした物体がゆらゆらと宙を漂っていた。
『え?……何?これは……?煙……とは、少し違うような?まさか魔獣?』
ただの煙にしては、風に流れることもなく一定の場所に留まっているから、なんだか違和感がある。
そういえば学校の授業で習ったんだけど、魔獣は様々な姿で人前に現れるみたいで。
ときには動物だったり、物だったり、煙のような形の定まらない物だったり。
とにかく魔獣らしき物を見たらすぐに、大人に助けを乞うこと、と教わったのを思いだした。
魔獣らしき煙がゆらりと、音もなく距離を詰めてくる。
その瞬間、くるりと身体を反転させ、全速力で学園に向かって走った。
『キャーッ!誰か助けてぇっ!』
学校からほど近くで遭遇したことが幸いし、すぐに駆け付けてくれた先生のおかげで、私は怪我もなくぶじに助けられたのだけれど。
両手を広げて迫り来るアレを思い出すたびに、もう10年も前の記憶だというのに、自然と身体が震える。
「私も強力な魔法を使えるようになれたら怖いものなんてないのに…」