へなちょこ魔女は、ぎんいろの瞳に恋をする


「あらっ……メイベルさん⁉もう消灯時間はとっくに過ぎてるけど、ちゃんとトイレを済ませてなかったの?」



22時の消灯時間を過ぎてまだ5分も経っていないかろ。

それぞれの部屋だけではなくて廊下や階段、寮内から完全に光が消えた中。

右手に持ったランタンの明かりだけを頼りに、息をひそめながら廊下を歩いていた。



「げっ、サマラさん……」



寮内を見回るエリノア寮長に出会うことなく1階のトイレまで辿り着けた、と喜んだのもつかの間で。

トイレの中に足を踏み入れると5室あるうちの1室から出てきたサマラさんと、ばったり出くわしてしまったのだ。



「あなた確か高等部の1年生だから…部屋は4階だったわよね?なんでわざわざ1階のトイレにいるの?」



湧き水のようにあふれ出る冷汗が、こめかみや手のひらを滲ませる。



「いやっ、そのっ、あははは!4階のトイレが満室だったもので!お腹が痛くて耐えきれなかったものですからっ」

「あら、そうなの?大丈夫?確かにすごい汗だもんねぇ」

「あははははは、はい!夜の学食のデザートのパンナコッタを食べすぎてしまったせいですかね!あははははは!」



消灯時間を過ぎているにも関わらず、5室あるうちのトイレが満室だなんて…咄嗟の言い訳だったにしろ、そんなバカな……だよね。

それならせめて、3階のトイレに行けよって思われてそう。

私を見るサマラさんの目が白けているような気がして、逃げるようにして1番奥側にある1室に駆け込んだ。

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