へなちょこ魔女は、ぎんいろの瞳に恋をする
勢い良く個室に入り鍵を閉めると、サマラさんが「整腸剤あるから、治らないようなら寮母室まで取りに来なさいね」と優しい声で言い残し、トイレから完全に人の気配が消えた。
ふぅぅ……危ない危ない。
苦しい言い訳だったけど、なんとかサマラさんを誤魔化すことができたみたい。
「あとは……小窓から脱出するだけだね」
ランタンの明かりを消すと、トイレの四隅に隠すようにして置いた。
そしてドキドキしながら開いていた便座の蓋を閉め、恐る恐る蓋の上に足を乗せてみる。
それからめいっぱい背伸びをして両手を伸ばすと、小窓の枠に両手の指をかけた。
タイルの壁や配管に足をかけながらよじ登る。
「うぅっ……狭いっ。肩とお腹がつっかえてて痛いぃ…」
狭い窓枠の中で身じろぎしながらも、なんとか寮外へ出ることに成功した。
1階のトイレの小窓から外へ出ると、辺りはすっかりと深い闇に覆われていた。
寮をぐるりと囲んでいる森からは、虫のさざめきや、風で葉がざわざわと騒ぐ音が不気味に響いている。
森の奥から犬の遠吠えのような声も聞こえてきて、なんだか怖くなってきた。
「ルキはどこだろう…?」
待ち合わせ場所を決めておけば良かったな、と後悔しながらも、女子寮のすぐ隣に建つ男子寮の周りを歩いてみることにした。