へなちょこ魔女は、ぎんいろの瞳に恋をする
ルキはそんな私の視線に気付いているのかいないのか、真っ直ぐにレックスさんを見あげ
ている。
「すみません、俺が彼女を連れ出したんです。だから彼女のことは責めないであげてください」
なんて、頼んだわけでもないのに、私を庇うような発言をするルキの優しさに胸がきゅんと疼いた。
「いやいや、別に怒ってるわけじゃねぇんだよ。母さんにチクるつもりもないしな。ただ、ここらは魔獣が特に多く目撃されているから、夜に脱走なんてもうやめな。危ねぇからよ」
レックスさんは「さっさと帰んな」と笑いながら、私の頭を大きな手でワシャワシャと撫でまわす。
私が「はい」と頷くと、レックスさんは満足げに口角を上げ、頭をかき回していた大きな手をさげた。
「あの……レックスさんは、今からどこに行くんですか?」
「あぁ、俺か?どこって、そこの森だよ。こんな山奥に来た理由なんか、フォルスティア学園か学生寮か、森に用がある以外に何もないだろ」
確かにこのあたりには、レックスさんが言うように学校と寮くらいしか建物はないんだ。
森は立ち入り禁止区域となっているけれど、木の実が豊富にあったり、湖には魚がいたり、シカやウサギを狙った狩人が来たりなんかして。
気味の悪い森にも日中はそれなりに人が出入りをしたりなんかして、こうして人が訪れることは珍しくない。
でも、それはあくまで日が沈む前までの話しであって、夜更けに森を訪れる人なんかまずいない。
それは、レックスさんが言っていたとおりこのあたりでは人を襲う凶悪な魔獣が多く目撃されていることもあって。
夜になると私たち魔法使いはより魔力が高くなるように、魔獣も魔力が高まるから一層活動的になり、凶暴化してしまうから。