エリート同期の独占欲
年次の若い子を育てるなら意欲も湧くけれど、同期相手に仕事を教えるやりづらさといったら、うんと年下の相手に結婚を申し込んだところ、その親が自分と同い年だったというシチュエーションにも匹敵する。
もちろん逆だったらもっと嫌だ。菅波の下につくなんて絶対に断る。
突然の配置転換及び転勤を菅波はどう思っているのか。本人が望んだ異動なのか、仕方なく受け入れたのか。
知りたい気もするし、知りたくない気もする。
この十年、どんな日々を過ごしてきたのか、酒の力を借りて聞き出そうとしたとき。
「菅波さん、飲んでますか?」
いつもは置物のようなお嬢様が寄ってきた。珍しい。
「楠さんだっけ」
「はい。よろしくお願いします」
ひろみはビール瓶を手に取ると、菅波のコップに注いだ。思い出したように、わたしのコップにも。
「ありがとう」
「大阪で営業してた方って聞いて、芸人みたいな方が来るのかと思ったんですけど、そんなことなかったですね」
芸人みたいな方って何だ。
「営業らしくないとはときどき言われる」
「やっぱり! 全然見えないですもん」
「そういう色眼鏡、外せるといいね」
「あ、迷惑でしたか?」
「いや、僕じゃなくてあなたのために」
菅波は終始、にこやかな笑顔を浮かべたまま応対していた。
あなた、とひろみに向けて言い放った声はやわらかいのに冷たくて、ドライアイスに水をかけたときに出る白いけむりのようだった。気をつけなくちゃ。触れると火傷する。
「わたし、常識がなくて……気をつけますね。すみません」
「常識がないというのは自分でそう思うの? それとも周りが言うのかな?」
「両方です」
「見るからに営業だとか、見るからにSEだなんて、外見でわかる特徴があるとは思えないな」
多分、ひろみは菅波が「入社から一貫して総務畑です」と名刺を差し出したとしても、「そんな感じですね~」と素直に応じるだろう。
わたしは菅波のコップにビールを注ぎ足しながら言った。
「でもCEさんの鞄は大きくて何でも入ってるよね。全員が当てはまらなくても、やっぱり職種ごとの特徴はあると思う。SEは、外出の予定がある日とない日によって違うと思うけど」
「なるほど、そうですね~」
もちろん逆だったらもっと嫌だ。菅波の下につくなんて絶対に断る。
突然の配置転換及び転勤を菅波はどう思っているのか。本人が望んだ異動なのか、仕方なく受け入れたのか。
知りたい気もするし、知りたくない気もする。
この十年、どんな日々を過ごしてきたのか、酒の力を借りて聞き出そうとしたとき。
「菅波さん、飲んでますか?」
いつもは置物のようなお嬢様が寄ってきた。珍しい。
「楠さんだっけ」
「はい。よろしくお願いします」
ひろみはビール瓶を手に取ると、菅波のコップに注いだ。思い出したように、わたしのコップにも。
「ありがとう」
「大阪で営業してた方って聞いて、芸人みたいな方が来るのかと思ったんですけど、そんなことなかったですね」
芸人みたいな方って何だ。
「営業らしくないとはときどき言われる」
「やっぱり! 全然見えないですもん」
「そういう色眼鏡、外せるといいね」
「あ、迷惑でしたか?」
「いや、僕じゃなくてあなたのために」
菅波は終始、にこやかな笑顔を浮かべたまま応対していた。
あなた、とひろみに向けて言い放った声はやわらかいのに冷たくて、ドライアイスに水をかけたときに出る白いけむりのようだった。気をつけなくちゃ。触れると火傷する。
「わたし、常識がなくて……気をつけますね。すみません」
「常識がないというのは自分でそう思うの? それとも周りが言うのかな?」
「両方です」
「見るからに営業だとか、見るからにSEだなんて、外見でわかる特徴があるとは思えないな」
多分、ひろみは菅波が「入社から一貫して総務畑です」と名刺を差し出したとしても、「そんな感じですね~」と素直に応じるだろう。
わたしは菅波のコップにビールを注ぎ足しながら言った。
「でもCEさんの鞄は大きくて何でも入ってるよね。全員が当てはまらなくても、やっぱり職種ごとの特徴はあると思う。SEは、外出の予定がある日とない日によって違うと思うけど」
「なるほど、そうですね~」