エリート同期の独占欲
 同じSEでも、レディースの鞄をおしゃれに使いこなす男性もいれば、アンダーシャツなしにワイシャツを着て陰で笑われている人もいる。わたしや瑠衣は、基本的にパンツスーツしか着ないけれど、ひろみは年中明るい色の服しか着ない。

「うちみたいな会社は、親会社のサーバ機器を売り込む法人相手の営業が主で、飛び込みはないから、いわゆる世間一般の営業というイメージとは違うかもしれないわね」
「楠さん、これ知ってる?」

 菅波が取り出したのは、ルービックキューブだった。鮮やかな色がまぶしい。

「見たことあります。やったことはないですけど」
「直方体の六面にそれぞれ六色をそろえれば完成。よかったらどうぞ」
「わー、できるかなぁ……」

 おもちゃを与えられたお嬢様はすぐさま夢中になった。ひろみを黙らせようとしたなら、効果てきめんだ。

「おもしろいもの持ち歩いてるんだね」
「暇つぶし」

 菅波が怒るところを見てみたい。きっと綺麗だろう。でも自分が怒らせるのは嫌だなとも思う。
 遠くから見ているならいい。
 表面温度の高い星が青白く光る……きっとそんな美しさ。
 ドライアイスだったり星だったり、人間離れしたものばかり連想してしまう自分にちょっとあきれる。
 踏み込んだ話はできないまま歓迎会はお開きになった。改めて挨拶を求められた菅波は、優等生的な抱負を述べていた。
 次のお客様がいらしてますので、と店員に急かされて座敷を出た。
 化粧室に寄って脂取り紙で崩れたメイクを整える。
 扉を開けて廊下に出ると、男子化粧室から菅波が出てきたところだった。

「あ……」

 さっきまで隣で飲んでいたのに、思いがけず目の前に現れると動揺してしまう。
 忘れていた、ようやく忘れられることができた、でも実は忘れられない場面を思い出す。
 新人全員が一か月間受ける共通の研修が終わる記念に、新橋のアジアンレストランを借り切って行われた同期会。配属を控えて、もうすぐばらばらになる感傷を隠すように、みんなテンションを上げていた。
 二十二歳だった。若かった。
 誰が誰を好きだという話題で盛り上がり、六十人もいるとカップルもできるんだなぁと他人事として眺めていたわたしの名前が呼ばれた。

 ――菅波が好きなのは会田だって。美男美女カップル成立かー?
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