エリート同期の独占欲
四月のNo.1 (2)
地下への階段を降りると、暗い通路が続いていた。壁も天井も黒光りする岩のような材質で、触れるとざらざらする。こんな都会に洞窟があるわけがないから、あくまでもそのように見せる内装なのだろうけれど。
木製の扉の前で菅波が足を止めて振り返る。抱き締められるのかと反射的に身構えた自分にびっくりした。
「どうしたの」
指摘されてなおさら恥ずかしい。ううん何でもない、と答える声も上ずってしまう。
(しっかりしなきゃ)
扉が開くと、中の空間がまぶしく広がった。
カウンター席は埋まっていて、奥のテーブル席にもカップルが数組いる。BGMは会話を邪魔しない程度のボリュームで流れており、雰囲気のいい店だ。
「いらっしゃいませ」
席に案内してくれた男性が、「ごゆっくりどうぞ」と菅波とわたしの目を見て言った。
「今の、店長さん?」
「そうだね」
「よく来るの、ここ?」
「初めてではないけど」
「常連?」
「質問が多いね」
答えをはぐらかしたまま、菅波は席に着き、わたしの手元にメニューを差し出した。
「どうぞ」
「……ありがとう」
この店が菅波の行きつけであっても、そうでなくても。
別にどうでもいい。
菅波について知っておきたい、何を考えているか把握したいという気持ちは、仕事を円滑に進めるためであって、プライベートでどんな店に行こうが、誰とどう過ごそうが、わたしには関係ない。
必要以上に近づきたくない。近づいたら危ない。用心しないと。
菅波はおそらく自信家で、プライドも高いタイプだと思う。たとえるなら硬くて不透明なガラス。容易に壊れたりはしないだろうけれど、とにかく感情を見せないから得体が知れないし、接し方がわからない。
「おすすめはフレンチトーストって言ってたよね。こんなに種類があるなんて思わなかった」
「選択肢が多い方が楽しめるでしょう」
「確かに……迷っちゃう」
華やかなデザートメニューはどれも魅力的で困る。
ダークチェリーが載ったのと、苺が載ったのと、小豆が載った和風の。この三つの候補の中から選ぼうかな。でも桃もおいしそう……と目移りして、なかなか決められない。
メニューから視線を上げると、クールなまなざしに射抜かれた。
「決めた?」
「え、っと……菅波は?」
「僕はこれ。あとコーヒー」
木製の扉の前で菅波が足を止めて振り返る。抱き締められるのかと反射的に身構えた自分にびっくりした。
「どうしたの」
指摘されてなおさら恥ずかしい。ううん何でもない、と答える声も上ずってしまう。
(しっかりしなきゃ)
扉が開くと、中の空間がまぶしく広がった。
カウンター席は埋まっていて、奥のテーブル席にもカップルが数組いる。BGMは会話を邪魔しない程度のボリュームで流れており、雰囲気のいい店だ。
「いらっしゃいませ」
席に案内してくれた男性が、「ごゆっくりどうぞ」と菅波とわたしの目を見て言った。
「今の、店長さん?」
「そうだね」
「よく来るの、ここ?」
「初めてではないけど」
「常連?」
「質問が多いね」
答えをはぐらかしたまま、菅波は席に着き、わたしの手元にメニューを差し出した。
「どうぞ」
「……ありがとう」
この店が菅波の行きつけであっても、そうでなくても。
別にどうでもいい。
菅波について知っておきたい、何を考えているか把握したいという気持ちは、仕事を円滑に進めるためであって、プライベートでどんな店に行こうが、誰とどう過ごそうが、わたしには関係ない。
必要以上に近づきたくない。近づいたら危ない。用心しないと。
菅波はおそらく自信家で、プライドも高いタイプだと思う。たとえるなら硬くて不透明なガラス。容易に壊れたりはしないだろうけれど、とにかく感情を見せないから得体が知れないし、接し方がわからない。
「おすすめはフレンチトーストって言ってたよね。こんなに種類があるなんて思わなかった」
「選択肢が多い方が楽しめるでしょう」
「確かに……迷っちゃう」
華やかなデザートメニューはどれも魅力的で困る。
ダークチェリーが載ったのと、苺が載ったのと、小豆が載った和風の。この三つの候補の中から選ぼうかな。でも桃もおいしそう……と目移りして、なかなか決められない。
メニューから視線を上げると、クールなまなざしに射抜かれた。
「決めた?」
「え、っと……菅波は?」
「僕はこれ。あとコーヒー」