エリート同期の独占欲
四月のNo.1 (3)
「美月さん来るの待ってたんですよ~」
瑠衣がまっすぐやってきた。コピー機のトナーインク補充をしたばかりらしく、手に空き箱を抱えている。
「ごめんね。結局、二次会行けなくて」
皆が集まる二次会に顔を出さず、菅波の誘いに乗ったのを悟られたくなくて、こちらから話題を振った。
「どうだった? 誰か倒れたり、セクハラ発言したりしなかった?」
「ありませんでした」
「店のインテリア壊したり、終電逃して朝まで公園で酒盛りしたり、カーネルおじさん人形を連れてきちゃったり?」
「大丈夫です、っていうかそんなこと毎回やってたら、うちの会社この界隈のお店、出入り禁止になっちゃいますよ」
「よかったわ。まぁ、わたしならいつでも飲みにつき合うから、また誘って」
はい、と瑠衣はうなずいた後、ん、と首をかしげた。
「どうしたんですか、美月さん、何かいつもと違います」
「……髪はねてる? 化粧品はいつものだけど」
「外見じゃなくて、っていうか表情? 声? うまく言えないんですけど、どこか違うんですよね」
「小じわができた? それとも白髪……? 年齢サインかしら」
「やだ、違いますよぉ」
「鏡見てくるわ」
瑠衣をあしらって、洗面所へ向かう。
鈍いようで鋭い後輩の目にどきどきした。
昨夜、菅波に交際を申し込まれた。
わたしとしては断ったつもりだけれど、菅波は納得して退いてくれるのか。恋愛経験値が低いせいで、この後の流れがよくわからない。
わたしの恋人は、仕事。
嘘だけど、嘘じゃない。
わたしにとって何よりも優先すべきは仕事で、彼氏を作ってデートしたり、将来を考えるよりも、仕事に打ち込む方が自然なことだ。仕事は浮気しないし、心変わりもしない。誠実で、裏切らない。こっちががんばった分だけ応えてくれる。ときに理不尽な要求をされることはあるけれど、やり遂げれば充実感を得られる。ボーナスというごほうびも与えてくれる。
「……うん」
鏡の前でうなずく。
三十二歳。二十代の頃とは頬の輪郭が変わってきた気がするけれど、年齢相応だと思う。
「会田さん、おはようございます」
洗面所に入ってきたのは、ひろみだった。レモンイエローのワンピースがまぶしい。
「おはよう。その服いいわね」
「ありがとうございます」
鏡に向かって二人並ぶと、やはり年齢差を感じる。
気に病むことじゃない、と自分に言い聞かせる。
瑠衣がまっすぐやってきた。コピー機のトナーインク補充をしたばかりらしく、手に空き箱を抱えている。
「ごめんね。結局、二次会行けなくて」
皆が集まる二次会に顔を出さず、菅波の誘いに乗ったのを悟られたくなくて、こちらから話題を振った。
「どうだった? 誰か倒れたり、セクハラ発言したりしなかった?」
「ありませんでした」
「店のインテリア壊したり、終電逃して朝まで公園で酒盛りしたり、カーネルおじさん人形を連れてきちゃったり?」
「大丈夫です、っていうかそんなこと毎回やってたら、うちの会社この界隈のお店、出入り禁止になっちゃいますよ」
「よかったわ。まぁ、わたしならいつでも飲みにつき合うから、また誘って」
はい、と瑠衣はうなずいた後、ん、と首をかしげた。
「どうしたんですか、美月さん、何かいつもと違います」
「……髪はねてる? 化粧品はいつものだけど」
「外見じゃなくて、っていうか表情? 声? うまく言えないんですけど、どこか違うんですよね」
「小じわができた? それとも白髪……? 年齢サインかしら」
「やだ、違いますよぉ」
「鏡見てくるわ」
瑠衣をあしらって、洗面所へ向かう。
鈍いようで鋭い後輩の目にどきどきした。
昨夜、菅波に交際を申し込まれた。
わたしとしては断ったつもりだけれど、菅波は納得して退いてくれるのか。恋愛経験値が低いせいで、この後の流れがよくわからない。
わたしの恋人は、仕事。
嘘だけど、嘘じゃない。
わたしにとって何よりも優先すべきは仕事で、彼氏を作ってデートしたり、将来を考えるよりも、仕事に打ち込む方が自然なことだ。仕事は浮気しないし、心変わりもしない。誠実で、裏切らない。こっちががんばった分だけ応えてくれる。ときに理不尽な要求をされることはあるけれど、やり遂げれば充実感を得られる。ボーナスというごほうびも与えてくれる。
「……うん」
鏡の前でうなずく。
三十二歳。二十代の頃とは頬の輪郭が変わってきた気がするけれど、年齢相応だと思う。
「会田さん、おはようございます」
洗面所に入ってきたのは、ひろみだった。レモンイエローのワンピースがまぶしい。
「おはよう。その服いいわね」
「ありがとうございます」
鏡に向かって二人並ぶと、やはり年齢差を感じる。
気に病むことじゃない、と自分に言い聞かせる。