エリート同期の独占欲
「え、美月さん、寝不足ですか? 昨日って遅くまで残ってませんでしたよね?」
「ちょっとね」
「もしかしてトラブル?」
「ううん、ちょっと私用で夜更かししちゃって」
「珍しいですね」
瑠衣が不思議そうな顔をしている。
ルービックキューブに時間を奪われたなんて言えない。
昨日、早速購入して帰った。
菅波にできるんだから、わたしにもできるはず。
その一心で始めて、おもしろさに開眼した。最初は一面完成させるのがやっとだったけれど、そろえたい色を移動させ、いくつもの面を作るうち夢中になった。さすが、発売から数十年経っても世界中で愛されているおもちゃだと思う。
そして六面そろったときの達成感。
気づけばカーテンの外は明るく、新聞がポストに投函される音が近づいてきていた。
手足が重く、だるく、頭の芯がしびれたような感じはしたけれど、気分は悪くなかった。
「課会始めるぞー」
岸川課長の声に、ひろみがプリンターのトレイから資料を持ってやってくる。紙詰まりさせることなく、ちゃんと人数分の印刷ができたようだ。
ふと視線を落とし、わたしは目を疑った。
(Aランク?)
新しいプロジェクトの担当者が、菅波になっている。プロジェクトの規模や重要度によってランク付けは変わるけれど、最重要とされるAランクの案件は課長かわたしが受け持つのが今までの通例だった。
「次、菅波」
「はい」
菅波が話し始める。
「光進義塾、こちら教育事業を手がける会社で、岸川課長から引き継いだ顧客になりますが、追加商談の掘り起こしに成功しました。現在、我が社の出退勤管理システムをご利用いただいていますが、追加でサーバ更改、及び全社員に持たせる携帯端末の導入をご契約いただきました」
淡々とした語り口。
追加商談と聞いても、課員たちから目立った反応はなかった。眠そうに目を閉じている男子もいるし、瑠衣もひろみも特に驚いていない。
わたしだけが心臓をばくばく鳴らして、平常心でいられない。
他社のシステムを利用している顧客がうちに乗り換えてくれる。それがどんなにすごいことか、多分、若い子たちはわかっていない。新しいシャンプーのサンプルを試すような気楽な話じゃないのだ。
(このままじゃ負ける)
「ちょっとね」
「もしかしてトラブル?」
「ううん、ちょっと私用で夜更かししちゃって」
「珍しいですね」
瑠衣が不思議そうな顔をしている。
ルービックキューブに時間を奪われたなんて言えない。
昨日、早速購入して帰った。
菅波にできるんだから、わたしにもできるはず。
その一心で始めて、おもしろさに開眼した。最初は一面完成させるのがやっとだったけれど、そろえたい色を移動させ、いくつもの面を作るうち夢中になった。さすが、発売から数十年経っても世界中で愛されているおもちゃだと思う。
そして六面そろったときの達成感。
気づけばカーテンの外は明るく、新聞がポストに投函される音が近づいてきていた。
手足が重く、だるく、頭の芯がしびれたような感じはしたけれど、気分は悪くなかった。
「課会始めるぞー」
岸川課長の声に、ひろみがプリンターのトレイから資料を持ってやってくる。紙詰まりさせることなく、ちゃんと人数分の印刷ができたようだ。
ふと視線を落とし、わたしは目を疑った。
(Aランク?)
新しいプロジェクトの担当者が、菅波になっている。プロジェクトの規模や重要度によってランク付けは変わるけれど、最重要とされるAランクの案件は課長かわたしが受け持つのが今までの通例だった。
「次、菅波」
「はい」
菅波が話し始める。
「光進義塾、こちら教育事業を手がける会社で、岸川課長から引き継いだ顧客になりますが、追加商談の掘り起こしに成功しました。現在、我が社の出退勤管理システムをご利用いただいていますが、追加でサーバ更改、及び全社員に持たせる携帯端末の導入をご契約いただきました」
淡々とした語り口。
追加商談と聞いても、課員たちから目立った反応はなかった。眠そうに目を閉じている男子もいるし、瑠衣もひろみも特に驚いていない。
わたしだけが心臓をばくばく鳴らして、平常心でいられない。
他社のシステムを利用している顧客がうちに乗り換えてくれる。それがどんなにすごいことか、多分、若い子たちはわかっていない。新しいシャンプーのサンプルを試すような気楽な話じゃないのだ。
(このままじゃ負ける)