エリート同期の独占欲
 菅波が今期の課内売上トップになる。今わたしが担当している案件を全部合わせても、金額で負ける。
 大きな案件を担当しているから偉いわけじゃないけれど、菅波の手腕がうちの課に、ひいては会社にもたらす利益は莫大なものになる。当然、ボーナス査定にも影響する。

「菅波は、営業とSEのハイブリッドだな」

 課長が満足げに言った。どれだけ菅波に期待しているかわかる声だった。
 菅波には、補佐として三年目の男子をつけると言う。

「今年度、上期から下期にかけて継続するプロジェクトになる。ミスのないようしっかりやってほしい。というわけで、うちの課に来てから、菅波には俺や会田に同行していくつかの顧客に挨拶に行ってもらったが、当面、リーダーとしてこの顧客に専念してもらう」
「待ってください」
「ん?」

 菅波が背筋を伸ばして言った。

「会田課長代理から学ぶことはまだまだあるので、引き続き教えていただけると助かるんですが」

(よく言う! 追加商談まで掘り起こしておいて)

 わたしから教えることなんてもうない。菅波の知識は転籍してきたばかりとは思えないほどで、SEとして充分やっていけるレベルに達している。

「んー……でも時間的にどうだ? 忙しくなるぞ?」
「岸川課での仕事のやり方をまず身につけることが、結果的に、無駄がなく効率のいいプロジェクト遂行につながると思います」
「そうか。まぁ、うん、それが菅波の希望なら」

 殊勝な態度に悪い気はしなかったようで、課長は菅波の意向を呑んだ。
 要するに、菅波はAランク案件のリーダーを務めながら、並行してわたしや課長の案件の作業メンバーとして動くということ。
 同期に仕事を教えるという居心地の悪い毎日は、もう少し続きそうだ。
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