エリート同期の独占欲
 定時を過ぎ、客先での定例会議が終わった後、菅波が何か言いたそうなそぶりを見せた。

「どうかした? わたし、会社に戻るけど」
「じゃ、僕も戻る」
「何それ。仕事は終わったんだし、好きにしていいよ。直帰するならスケジュール更新しておけば大丈夫」
「――……」

 幹線道路は車が行き交い、ちょうどエンジン音を鳴らして通ったバイクのせいで、菅波の言葉を聞き取れなかった。

「ごめん、聞こえなかった。何?」
「そんなに忙しくしてたら、彼氏と会う暇もないだろうと思ってさ」
「……そんなこと心配してもらわなくて結構です。じゃ、お疲れ様」

 菅波を置いて駅への道を歩き出すと、足音が追ってきた。

「僕のこと意識してる?」
「……自意識過剰じゃない?」
「じゃ、質問を変える。警戒してるよな」

 わたしは無視して足を速める。
 面と向かって話すと、このひとはわたしとつき合いたいと思ってるんだよね……と思い出してしまう。
 いもしない架空の彼氏からわたしを奪うと宣言までしたおかしな同期。
 仕事のときは一緒にいる。必要なことは話す。でもそれ以上は無理。定時後まで侵食しないでほしい。

「僕が会田の予定に合わせて動くのが気に入らない?」
「気に入らないというか、気持ち悪い」
「ひどい言われようだ」
「あくまでも仕事で一緒にいるだけだから」

 いっそわたしも全然違う部門に飛ばされたい。

「そうだね。今のところ、僕は彼氏に後れを取ってる。だから追いかけてみようかと思ったんだけど、追いかけられるのと違って追いかけるのも楽しいんだってわかった」

 さぞ、もてまくりの人生を送ってきたんだろう。
 見た目はいいから。

「会社に戻って残業するなら、夕食は社食かコンビニ? せっかく外に出たんだからうまい飯食ってこうよ。このあたりだと、隠れ家的な蕎麦屋か、若鶏のカツレツが自慢の洋食屋、あとはパン食べ放題もあったな。どこも二、三分歩けば着く。どう?」
「……つられません」
「ダイエットの必要はないと思うな」
「そんなこと自分で決める。わたしはわたしのやりたいようにやるから」
「もちろん。選択権は会田にある。僕は提案しただけ。たまたまおいしい店を知ってたから。今月末までだったかな。ひとりで行くのも悪くない店だけど、会田にもぜひ味わってほしい」

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