エリート同期の独占欲
「誤解してる。特別に親しいわけじゃないわ」
「え、でも菅波さん言ってましたよ。向こうで十年間、出会いがなかったわけじゃない。でも、美月さんほど優秀で魅力的な女性はいなかったって」

 あの男は……!
 わたしを元カノ扱いか。
 頭が痛い――っていうか又聞きしただけで歯が浮く。何が魅力的な女性だ。よく言う。

「何をほざいてるんだか。それ冗談だからね。八木原さん、口のうまい男の言うことは信じちゃ駄目」
「口がうまいかどうかなんて見抜けませんよ。わたしが口説かれたわけでもないし。むしろあんなこと言われたら、大抵の女性は遠慮しちゃいます。そっか、牽制ってこと? 彼女募集してないから僕に近づくな、って意味なんですかね?」
「さぁ……それはわからないけど、そうなのかもね」

 部長が、おーい、と声を上げている。何でしょう、と聞いたら、手招きされた。

「会田、全然菅波と話してないじゃないか。同期なんだろ? こっち来ていろいろ教えてやったらどうだ」
「いえ、わたしが教えることなんて特に」

 業務時間内ならともかく、酒席で菅波と話すのはごめんだ。
 でも部長は「遠慮はいらないから」としつこく手招きする。

「会田さんどうぞどうぞ」

 囲んでいた後輩たちが気を遣ってくれて、菅波の隣にひとり分のスペースが空く。
 無視するわけにもいかず、わたしはビール瓶を持って席を移動した。

「お疲れ様です」

 部長、菅波、そして周りのメンバーにビールを注いだ。
 部長はだいぶ顔が赤い。菅波は顔色ひとつ変えていない。
 酒に強かったか、食べ物の好き嫌いはあったか思い出せない。それでいてグラスを持つ指の感じや、眉間にかかる前髪の流れ方はよく憶えている。癖っ毛ではないものの、髪の生え方に特徴があり、前髪が左から右に斜めになっていた。あの頃と同じ。
 わたしは菅波の取り皿に目をやった。

「菅波くん、今日のメニューは大丈夫? 苦手な食べ物なかった?」
「好物ばかり。うまいね。ありがとう」
「よかった」
「前みたいに『菅波』って呼ばないんだな。ずいぶん他人行儀な気がするけど」
「そんなのそっちだって」

 わたしのこと呼ばないじゃない、と言いかけてやめたので、妙な間が空いた。
 とにかく突っかかるのはやめよう。そう決めて、当たり障りのない話題を振る。

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