エリート同期の独占欲
「向こうにいる間、他の同期と会うことはあったの?」
「ほとんどないな。こっちに来る直前に、鈴木(すずき)と松浦(まつうら)が壮行会を開いてくれた。いつでも会えると思ってても、みんな忙しいし、異動とか退職でもない限りなかなか集まらない」
「東京も同じ。ビル内にいるのに、まるで別拠点みたい」
「忙しすぎるんじゃないか? 夜勤とか休日も出たりするんだろ」
「トラブルが起きれば出るけどね。最近は勤務時間にうるさいから、無茶な働き方はしてないし、みんなにもさせてない」
「さすが課長代理。かっこいいな」

 淡々とした言い方だったので、どう受け止めればいいのか反応に困った。
 嫌みたっぷりに言われたら、こっちも噛みついてやるところだ。

「自分ではかっこいいとは思わないけど」
「他人に目配りするのって大変だろ。いろいろ気苦労も多くなる。まぁ、仮に昇進しない方がよかったと思ってても、この場じゃ言えないよな」

 部長にちらりと視線を走らせる。

「……放っておいていいのか?」
「いつものことだから」

 部長は若い女性陣に囲まれてご満悦の様子。まさにでれでれ状態。
 特にお気に入りは入社三年目の箱入りお嬢様だ。役員から直々に、目をかけてやってくれと仰せつかっているのかもしれない。楠(くすのき)ひろみという子で、仕事ができないわけではないけれど、残業せずに定時で帰ることが多い。何となくみんな「あの子はわたしたちとは違うよね」と遠巻きにしている聖域だ。
 下戸の岸川課長は会話に加わらず、隅っこで小さくなっている。これまた頼りにならない人だけれど、会費は多めに払ってくれるので必ず飲み会には呼ばれるし、律儀に出席してくれるありがたい存在ではある。

「おかしな部署に来ちゃったと思ってる?」
「そんなことはない」
「さっきの話……役職についたこと、よかったとわたしは思ってる」
「本心?」
「もちろん。仕事は好きだし、評価されるために働いてるわけじゃないけど、何の褒章もなかったらやりがいがないじゃない」

 仕事が好きとはっきり口にするのは初めてだった。気恥ずかしいし、反感を買いそうだから、他の人間相手だったら「嫌いじゃない」程度に言葉を濁したと思う。
 でも適当な嘘をついたら菅波には見透かされそうな気がした。

「僕も同感」
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