エリート同期の独占欲
うつむきがちで喜怒哀楽の見えない横顔だったけれど、言葉だけでも同意してもらえてほっとした。
菅波がわたしのコップにビールを注いでくれた。
「ありがとう。……菅波も」
「ああ」
一口だけ飲んで半分ほど入ったコップを置いた。
「お酒強くなかったっけ」
「実はおいしいと思ったことがない」
「え、アルコール苦手ってこと?」
「食べ物飲み物全般に好き嫌いがないというか、あまり興味がない」
「そうなんだ……」
サラダに揚げ物、鍋といった飲み屋ならではのメニューに一応箸をつけてはいるものの、おいしいと感じていないとしたら。
人生半分くらい損してるんじゃないかと一瞬思ったけれど、価値観は人それぞれだ。
「こういう場は苦痛?」
「いや、そんなことない」
主賓だというのに一歩引いたテンションで、それが関心から来るものなのか、本性を隠して様子をうかがっているだけなのかわからない。
つかみどころがないという感覚に近い。透き通った湖をのぞき込んだら、遮るものがなくてどこまでも見通せそうに奥へ奥へと続いていた、そんな感じだ。深みにはまるのが怖い。底がないんじゃないかと想像してしまう恐ろしさ。
「わたしから見ると、営業の方が顧客とのつき合いとか大変な気がするけど、どう?」
「大変と思ったことはなかったな」
「向いてたんだね」
「自分では何とも。仕事だし。まぁでもネカフェには詳しくなった」
「ネカフェか……営業あるある?」
「どの席で眠れば冷暖房が直接当たらないとか、細かいところまで」
「席って指定できるの?」
「何度か通ううち、希望しなくても通してくれるようになった」
意外に神経質かもしれない。
「菅波って、最低限の家具しか部屋に置いてない?」
「最低限という基準が、人それぞれ違う」
「まぁそうだろうけど。生活感がなさそうだなぁと思って」
「生活の場を誰かに評価されたことがないから、何とも。別に持ち物を全て秩序立てて並べる趣味はないよ」
「そっか」
菅波がわたしの担当するプロジェクトの打合せに同行するようになって一週間足らず。
出しゃばりすぎず委縮することもなく、そつのない態度で今のところ問題はない。
でもわたしが課長代理で、一方の菅波は役職なしという関係は正直、気が重い。
菅波がわたしのコップにビールを注いでくれた。
「ありがとう。……菅波も」
「ああ」
一口だけ飲んで半分ほど入ったコップを置いた。
「お酒強くなかったっけ」
「実はおいしいと思ったことがない」
「え、アルコール苦手ってこと?」
「食べ物飲み物全般に好き嫌いがないというか、あまり興味がない」
「そうなんだ……」
サラダに揚げ物、鍋といった飲み屋ならではのメニューに一応箸をつけてはいるものの、おいしいと感じていないとしたら。
人生半分くらい損してるんじゃないかと一瞬思ったけれど、価値観は人それぞれだ。
「こういう場は苦痛?」
「いや、そんなことない」
主賓だというのに一歩引いたテンションで、それが関心から来るものなのか、本性を隠して様子をうかがっているだけなのかわからない。
つかみどころがないという感覚に近い。透き通った湖をのぞき込んだら、遮るものがなくてどこまでも見通せそうに奥へ奥へと続いていた、そんな感じだ。深みにはまるのが怖い。底がないんじゃないかと想像してしまう恐ろしさ。
「わたしから見ると、営業の方が顧客とのつき合いとか大変な気がするけど、どう?」
「大変と思ったことはなかったな」
「向いてたんだね」
「自分では何とも。仕事だし。まぁでもネカフェには詳しくなった」
「ネカフェか……営業あるある?」
「どの席で眠れば冷暖房が直接当たらないとか、細かいところまで」
「席って指定できるの?」
「何度か通ううち、希望しなくても通してくれるようになった」
意外に神経質かもしれない。
「菅波って、最低限の家具しか部屋に置いてない?」
「最低限という基準が、人それぞれ違う」
「まぁそうだろうけど。生活感がなさそうだなぁと思って」
「生活の場を誰かに評価されたことがないから、何とも。別に持ち物を全て秩序立てて並べる趣味はないよ」
「そっか」
菅波がわたしの担当するプロジェクトの打合せに同行するようになって一週間足らず。
出しゃばりすぎず委縮することもなく、そつのない態度で今のところ問題はない。
でもわたしが課長代理で、一方の菅波は役職なしという関係は正直、気が重い。