【BL】お荷物くんの奮闘記
 底のない怒りが全身を支配するという感覚を味わったことなど、生み出されてこの方一度も無かった。悲しさよりも怒りと絶望が頭をいっぱいにして、気が付けば知ってしまった事実を抹消するかのように、手にした書物ごと資料館を焼き払っていた。


 辺境の里もヒトも魔も勇者も魔王も、もうどうでもいい。


 大切な人との待ち望んだ再会さえ後回しにして、世界のために奔走していた彼が、どうして、殺されなければならなかったのだろう。


 彼を殺した勇者とやらが、今どこで何をしているのかは分からない。魔王城が跡形も無く消えてしまった理由も分からない。ただ、彼が正義の名の下に殺されて、その遺体が衆目に晒されたという事実だけは記録に残っていて。


 自分に石を投げた少年も、彼を魔王呼ばわりした人間も、救われた事実を忘れた魔の種族も、ぜんぶ、ぜんぶ消えてしまえばいい。


 彼を、救えなかった自分も。約束を守れなかった、自分も。



 大陸中を焼き尽くしてなお消せなかった絶望の黒い火を抱えて、自分は何度も別の世界を渡るようになった。


 どのみち、酷いことをしでかした自分が天界に戻れるわけがない。あんな世界を守らせようとした天界になんて、二度と戻りたくもないけれど。
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