【BL】お荷物くんの奮闘記
 戦闘経験の浅い自分と、師匠に熟練と言わしめる敵。真っ向から戦っても勝ち目がないのは目に見えている。こちらの攻撃魔法も、対属性で相殺されてしまったら打つ手なし。いっそ奇襲を仕掛けて、魔法を放つより物理攻撃する方がダメージを与えられそうだ。


 幻覚だらけのこの結界内で、手頃な石や木切れが手に入らないか。駄目元で探そうとして、背中に背負った重たいお荷物を思い出す。あったよ鈍器。勇者の剣。


 装備して戦うことはできないにしても、投げつけるくらいはできるのではないだろうか。


 背中から剣を下ろしてみる。重たいが、両手で投げられない重量ではない。ストーリー重要アイテムは壊れないと相場が決まっているのだから、少々手荒に扱っても問題ないだろう。


 敵に見つかるより先に自分が相手を見つけ出し、背後から投げつける。または後頭部に向かって振り下ろす。単純かつ実用的な作戦だが、殺人を企てる推理小説の犯人のような気分だ。

勢い余って殺人犯になってしまったら、身動きが取れないように拘束したのち蘇生呪文をかけることにしよう。敵とはいえ流石に寝覚めが悪い。


 勇者の剣を少々引きずるようにしながら周囲を探る。といってもあまり現在地から離れすぎると、せっかくたどり着いた結界の端からまた内部に迷い込んでしまいそうだ。


 自分で迷わずに端へ戻れる範囲内をあらかた探し尽くし、師匠の案内が正しかったのか疑いたくなってきたところで、先ほど自分が師匠に案内されて最初にたどり着いた地点に人影が見えた。

自分と入れ違いに現れたのだろうそいつは、明らかに怪しげなフードで何やらぶつぶつと呟いている。呟きに耳を傾けると、意味を成さない言葉の羅列――何かの呪文を声にしているようだった。
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