【BL】お荷物くんの奮闘記
 魔法だってそうだ。


 選ばれた勇者でもあるまいし、一般人にいきなり魔法が使えるとは思えない。現に、最初のダンジョン探索の時には炎さえ出せなかった。


 魔力こそスマホのステータスガジェットには微量ながら表示されていたが、魔力の素質があるからといってすぐに魔法が使えるのなら今頃世界は魔物一匹いない時代になっているはずである。


 何かに。


 すこしずつ、侵食されている、気がする。


「……なあ師匠。そろそろ出てきていいんじゃねえの」


 薄ら寒い疑問は、いくつかの仮説と確信へ導いた。


 これは仮説ではあるが、こちらに召喚された現代の人間は、この世界に都合の良い思考に向かうように矯正されているのではないか。


 召喚された理由や、役割に沿って。


 自分は夢の世界を楽しむことから、元の世界へ戻ることへと目的が移っていった。


 リュータさえ無事に連れ戻せるならこの世界の住民がどうだろうと無関係のはずなのに、こちらに生きる人々に感情移入して、困っていれば自分の手の及ぶ範囲でだけでも助けたいと思うようになっていて。
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