【BL】お荷物くんの奮闘記
 部屋に戻って早速、彼にも手伝わせて蔵書チェックを始めた。世界の呪いとやらがどんな症状を起こすのか、東国の使いとしてやってきた男におおまかに聞くことはできた――というより、実際に見せてもらった。男もまた呪いの発症者であり、ほんの小さな症状ではあったが、腕に巻かれた布の下には確かにそれがあった。


 呪い、と称されたそれは、SFなんかでたまに見かけるものだった。人の体の一部がひび割れたように映り、割れ目はノイズが走ったようにゆらめいて、英単語――おそらく、プログラミング言語がノイズの中に見え隠れする。


 たとえばこれが未来の世界で、登場人物はすべてホログラムとアンドロイドだったと言われればこの症状を「故障かバグだろう」と断言したに違いない。


 そして不具合であれば、メンテナンスのスキルを持ったエンジニアが適切なプログラムの書き換えを行うことで解決する。しかし、この世界はアンドロイドどころか電気も電波もない世界なのだ。


 文明レベルは中央都市の一部を除いてほとんど中世ヨーロッパである。もっと根本的な要因があって、そこへ土を被せた上に中世風の文明が勝手に築かれたと考えるべきか。


 その手の創世系の話になってくるなら、世界の呪いという名称で呼ばれていなかったにしても師匠の時代にも確実に症例は存在していたはずなのだ。
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