【BL】お荷物くんの奮闘記
 好きだとは、絶対に伝えられないのだと以前彼は言っていた。まるでその相手が今も生きているかのような口振りをしていたが、それはきっと自分に気を遣わせないためだった。

想いも、謝罪も、もういなくなってしまった人になんて、伝えるすべはない。普通なら。


 オレは、知っている。リュータが今も想っている相手の居場所を、伝えられる可能性のある手段を。


 こうおせっかいを焼きたくなってしまうのは、自分にとっても彼が大切な弟分だからだろう。


 彼はこれからも、恋心を宝物にして生きる。愛する誰かの面影を持った自分の隣で、ずっと。


 どうしてか遣る瀬ない気持ちになって、瞼の裏が熱くなる。それは叶わない恋を何年も、何十年も、それ以上の長い間大事に抱え込んできた彼の思いを想像して、ではなかった。






 ろくに眠れないまま朝が来た。リュータが少々挙動不審になっていたが、昨晩の行動から推察するに誰かさんの夢でも見たのだろう。

夢の中だけが逢瀬の場だとするならそれは彼にとって良い夢のはずで、その影響で始終そわそわしているくらいなら気付かないふりをしてやるべきか。


 荷造りを済ませて部屋を出る。別室で休んでいたヴェルターと合流して広間に向かうと、ノアは東国の使者とともに、既にその場に待機していた。


「おはようございます、ユウジ様。出発なさいますか」


「あ、ああ。よろしくな。ここからだと徒歩移動か?」


 この拠点が位置しているのは、中央都市からかなり東に進んだ山岳である。国交のない国だとすると、商隊なんかの馬車もほとんど出てはいないだろう。


「さようでございますね。大賢者様であれば飛行呪文で移動もできましょうが、他の者はそうはいきますまい」
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