【BL】お荷物くんの奮闘記
「「ユウ」に、しなくていいのか」


 リュータが目を見開いた。けれどすぐに表情は和らいで、彼は小さく首を振る。


「ユウじゃないよ」


 記憶の中に、こんなシーンはなかった。自分の脳みそが勝手に生成しているのであろう九歳のリュータは、コントローラーから手を離してそっとこちらの手に右手を重ねてきた。


「ユウジ、でいいんだ。……ううん、ユウジがいい」


「……深層心理って怖えな」


 妄想の産物でしかない九歳児相手に微笑まれただけで、たまらなくなる。

胸が痛むのは十中八九罪悪感が原因だ。

ユウじゃなくて、ユウジがいい。――選ばれる自信も根拠もどこにも見あたらないから、彼に言ってみてほしかっただけだ。


「ユウジ」


「ん」


「おれはリュータだよ」


「知ってる」


「ウリエルじゃないよ」


「……知ってる」


 ウリエルは、ユウのものだ。どうあがいても自分の入り込む隙などない。だからこうして未練がましく夢で描いているのは思い出の中の「リュータ」で。


「ユウジも、ユウじゃないよ」


「それを、……おまえが言うのか」


 言わせているのは自分の深層心理。分かっていて彼を責めるような口振りになってしまう。


「帰ろう。一緒に。おれ、このゲームの続きが知りたいよ」


「リュータ?」


「結局、魔王は倒さないままだったよね。ユウジのデータも、おれのデータも。……帰ったら三スロット目のセーブデータ使って、最初から始めよう」


「帰るって」


「おれね。旅も、ゲームも、ユウジと一緒じゃなきゃやだよ」
< 263 / 394 >

この作品をシェア

pagetop