【BL】お荷物くんの奮闘記
 牢は鉄格子で閉じられており、脱出は困難だろうに手まで拘束されている。床に埋め込まれた鎖に手錠が繋げられているおかげで牢の中でさえ満足に動けない。


 オレが何したっていうんだ。この世界に来てまだほぼ何もしていない自分が指名手配とは、身に覚えがなさすぎる。


 手錠ではなく縄で拘束されていたなら、ネットで昔面白半分に調べた縄抜けの方法が試せたかもしれないのだが、惜しんでも仕方ない。


 人違いで拘束されたのか、それとも濡れ衣か、第三者がこの牢の前にやってくるまでは見当がつかない。最悪の事態に備えて脱出の手段だけでも考えておこうというところで、地下にあるのだろう牢獄に足音が響いた。


「目が覚めたようだな」


 やってきた第三者は、先ほど何気なく殺しかけてくれたヴェルター本人だった。ほんの少しリュータが来てくれるのを期待していたが、彼は今頃言いつけを守っておとなしく宿で待機していることだろう。馬鹿正直で素直なやつなのだ。


「貴様の名は何という?」


 おまえ名前も知らずに捕まえたのかよ。どんな誘導尋問にかかるかも知れない。無言で睨み返していると、ヴェルターが笑った。


「答える気はない、か。だが、こちらにも都合というものがある。処刑される者の名が分からないことには、処刑の触書も出せん」
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