恋を知らない君を【完結】

ふう…と友人に促されて深く深呼吸する。よし,落ち着いたぞ。もうちょっとしてから返事返そう。今返したら変な事口走りそうだ。
「お前この子とどうなりたいの?」
ナッちゃんとどうなりたいか?
「付き合いたいとか,落としたいとか…なんかあるだろ」
「…嫌われたくない,かな」
一番しっくりくるのはこれだ。そんであわよくば。
「一番近くにいたい。頼ってほしいし俺がいないとだめって言われてえ~」
自分で言っといてなんだが,なんだそれ理想的過ぎる。ずぶずぶに依存されたい。
「じゃあ付き合いてえのか…」
「そういう肩書は別に要らない」
「はあ?」
そうだ。彼氏とか彼女とか,そういう名目は別に要らない。ただ,ナッちゃんの特別になりたい。
「ナッちゃんの全部を知りたいぃぃ…」
「…酔ってんな」
この俺がこんなに女々しくなるとは。自分でも引いてしまう。けどこれが本音だ。あの猫みたいなつれない態度の内側が知りたい。寂しそうに視線を彷徨わせるその目の先が俺だったらいいのにといつも思う。
「なーんか,あんまわかんねえけど正直に話せばいいんじゃね?妙な駆け引きとか効かなそう」
「正直にってなんだよ」
「おめーがうだうださっきから言ってることだよ」
「ナッちゃんを独占したいとか?」
「そ」
「好きだとか言ったら離れていく気がする」
「体から先に捕まえちゃえば」
ううん…確かにそれは近道かもしれないけど…
「それか,頼りになるお兄さんぷりを前面に押し出す?なんでも受け止めてあげるよ,的な。その子が傷ついてるときとかに颯爽と現れればいいんじゃね」
「ほう」
「お?いい返事?」
それもいいかもしれない。体から落とす作戦と並行してその作戦で行くか。ナッちゃんに頼られたいわけだからな。それでいいような気がする。
「…俺,覚悟決めて長期戦でやってみようかな」
「おお!やる気出てきたじゃねえの!」
よーし待ってろよナッちゃん!ぜってえ俺に依存させてやるから!その猫みてえなツンツンの裏側まで全部受け止めてやるからな!で。とりあえず,だ。


「返事,なんて返せばいいと思う?」
「自分で考えやがれ!!!」


もしよかったら,電話して,いつでもいいよ…と。

最初は都合のいい男でいいから。利用してくれていいから。寂しい時に連絡くれるところから頼むぜ!



【おわり】
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