恋を知らない君を【完結】

【女の子】

友人に連れられてやってきたここは,人が多くて音楽が鳴り響いていて決して居心地がいいとは言えない。だけどこうして隅でひっそりしていれば人には気付かれないし,存在感を消すには恰好の場所かもしれない。「遊ばなきゃ損でしょ!」という力強いお言葉に圧倒されてここへ来た。クラブというものに興味があったからこうしてきたことを後悔はしてないけど…自分が人ごみに弱いのを忘れていた。人酔いした。疲れた。それに人肌も苦手だから,薄着の人の体温に触れるのもちょっとキツイ。いや,絶対無理ってわけじゃないんだけど。薄く汗で湿った肌がちょっと…てなるだけ。うん。そう。
ふらふらと視線を彷徨わせながらここにいる人たちを見ていた。女性はとっても綺麗だ。みんな笑顔で,自分に自信がある風で,キラキラしていて魅力的。男性も爽やかだったりワイルドだったり色んなタイプがいてみんな楽しそうだ。こういう世界もあるのか~
そうしてみていると,パチッと目が合った。あ,ヤベ。見てるのバレたかな。見てませんよ~すみませんでした~
サッと目をそらして誰に目を向けるでもなく再び視線を彷徨わせた。
しばらくそうしていれば,さすがに声をかけられることもある。「一人なの?」「何飲んでるの」「あっちで遊ばない?」等々…少しだけ笑って「ごめんなさい」と断っていれば,立ち上がる気もないあたしの態度を察した人たちはすぐに去っていった。
「隣,いい?」
ああまたか…ダメです,とも言えずに曖昧に微笑んでおいた。
「何飲んでるの?」
「…モスコミュール」
「じゃあ俺もそれ」
モスコミュール2つ,とお兄さんが頼むとすぐにそれがやってきた。
「ハイ」
「え,いや…」
「カンパイ」
「…ありがとうございます」
頂いてしまった。にっこり笑ってくれたから,これでいいんだろうと思う。優しい人…なのかな。

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