恋を知らない君を【完結】
ハルナツ③
外回りで,スーツの上着を脱いで最寄り駅に向かっていた。もう夕方だし,雨も降りそうだし…いったん会社に戻るか直帰するかどうすっかなあ~と考えていた。平日なのにナッちゃんからの返事は昨晩から途切れている。何してんだろう。
駅に向かっているうちにパラパラと雨が降り出した。
「マジか」
この季節は夕立が凄い。外回りの時は傘を常備しててほんと良かった。周りを歩く人たちも傘を取り出していて,天気予報でも言ってたのかもな,と思った。
あっという間に雨は土砂降りになってスーツの裾も濡れてしまった。こりゃもう直帰だな。会社に連絡するとあっさり了承の返事が返ってきた。報告のメールだけあとで送っとこう。
駅に向かって歩いていると,傘をさしてない子が歩いているのに気付いた。うわ,ずぶぬれじゃん可哀相。そんなちっちゃいハンカチじゃなにも防げないでしょ。周りを歩く人たちも不憫そうな目で見ているけど誰も助けてあげようとはしない。そりゃそうだよなあ~あんだけ濡れてたらどうしようもないもんな。
俺も助けてあげるべきかどうか悩んだ。カワイイこならホテルに連れ込んでもいいけどこんな時間からなあ…それにメール送ろうと思ってるわけだし。汗もかいたから帰りたい気もする。
どうしよっかなあ~と思って,向かって歩いてくる女の子を見ていた。……ん?あれって?
「ナッちゃん…?」
嘘?うつむいてるから顔はちゃんと見えないけど,ナッちゃんな気がする。1カ月ずっとまた会いたいと思っていた子だ。これって運命じゃね!?
「ねえ!」
「!?」
思い切って声をかける。ハンカチで隠されてた顔がやっと見えた。
「ナッちゃん!やっぱり!」
「…誰?」
「え!?」
え,人違い?いやでも間違いなくナッちゃんなんだけど…
「ハル,ですけど…」
「ハルさん?なんでスーツ…あ,社会人か。髪型違うから分かんなかった」
なるほど。髪型は確かに遊びに行く時と仕事の時じゃ違う。
「なんでそんな濡れてんの?傘は?」
「ない」
「ひとり?」
「うん。店に逃げ込む前にずぶ濡れになっちゃって」
そうだったんだ…。
「急に本降りになったもんね」
でも,ナッちゃんには悪いけどこれは大層好都合だ。連れこんじゃっていいよね?
「これ,着な。汗臭かったらごめんね,一緒においで」
スーツの上着をかけて一緒に傘に入れた。断られるかもしれないと思ったけど,おとなしくついてきた。こういうところ,なんか猫っぽくてカワイイ。