思い出屋さんのゆううつ
「ばあさん、来週の花祭り、あんたも参加するのかい?」

 パン屋の主人からそう声をかけられたのは、買い物先の店主たちともだいぶ顔なじみになってきた頃のことでした。

「花祭り?」

「あら、おばあちゃん知らないの? 毎年この時期になると、春の訪れを祝って村をあげてお祭りをするのよ」

 横にいたお客さんもニコニコとそう言います。

おじいさんがいなくなってから村に下りてくることもなくなっていたヨモギさんは、村の行事についてからっきしなのです。

「でもいいのかねぇ、こんな年寄りが参加しちゃって」

「なーに言ってるの、みんなのためのお祭りなんだから。出店もたくさんあるし楽しいわよ。気晴らしに来てみなさいよ」

 出店、と聞いてヨモギさんの頭にぽっと一つの笑顔が浮かびました。

「坊やが、喜ぶかしらねぇ……」

「坊や? ばあさん、孫がいるのかい?」

「いいえ、最近よく遊びに来てくれる男の子なの。でも、なんだか本当に孫ができたみたいでねぇ」

 ヨモギさんはふにゃりと顔をほころばせます。

「いいことじゃないか。じゃあその子も一緒に連れといでよ。その時にはうちの出店にも寄っとくれ。お安くしとくからさ」

 パン屋の主人はそう言ってにかっと笑顔を見せました。

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