思い出屋さんのゆううつ
 そして、花祭りの当日――
 その日は春を祝うのにふさわしく、気持ちのいいお天気でした。

雲一つない青空に、色とりどりの紙吹雪が舞っています。

石畳にはどこまでも出店が立ち並び、その間を縫うように音楽隊が愉快なマーチを吹き鳴らしながら進みます。

うららかな光に包まれた、それは忘れていた胸のときめきをヨモギさんに運んできたのでした。

「ねえねえおばあちゃん、早く行こうよぉ」

 同じく横でわくわくと目を輝かせていた男の子は、もう待ちきれないというように繋がれた手を引っ張ります。

ヨモギさんは男の子に連れられるまま、ざわめきの中に飛び込んでいきました。

 ホットドッグ、ジュースにお菓子、さらに髪飾りや可愛らしい小物まで、出店には何でも揃っていました。

「さあ坊や、何でも好きなもの買ってあげるからね。どれがいい?」

「うんとねえ、僕あれが食べたい」

 男の子が指さしたのは綿菓子屋です。

店先ではおじさんが器用に棒を動かして、ふわっふわっと雲をかき集めています。
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