思い出屋さんのゆううつ
 それから出店をいろいろのぞいたり、大道芸人のショーやマジックを見たりしているうちに、あたりはすっかり夕方になっていました。

眩いほどのオレンジの中、二人は村の中心にある広場へ向かいます。

そこにはたくさんの村人たちが、みな思い思いにダンスやおしゃべりを楽しんでいました。

 歩き疲れたヨモギさんは近くのベンチに腰掛けます。

男の子はしばらくヨモギさんの脚を心配していましたが、遊んでおいでと言う笑顔を見て、にぎやかな輪の中に飛び込んで行きました。

「やあばあさん、来てたのかい」

 顔を上げるとそこにはパン屋の店主が立っていました。

「ええ、おかげさまで……楽しい一日だったわ」

 店主はヨモギさんの隣に腰掛けると、ほれ、と手にした袋を差し出しました。

「楽しすぎてうちに来るのを忘れてたみたいだな。ほら、あんたと坊やの分だ」

 ほわりとバターの香ばしい香りが漂います。

お代は、と言うといいからいいからと大きな手を振ります。

「それよりほら、食べてみてくれよ。うちの新作なんだ」
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