好きです、が浮かんでも
いつも、何も言えない。
私は先生に恋をしている。


その人は私にとって好きな人であり、優しいお兄さんであり、書道の先生でもある。


毎週水曜日の放課後、学校から自転車で十五分。


青い屋根の家に通う道すがら、勝手に心が弾んでいく。


初めは優しいなあ、だった。

優しいな、いい人だな、しっかりしてるんだなあ、がそのうち、好きだなあになった。


最初にいい人だなと思ったのは、教室は土日なのに、自由業で融通が利くからと土日が部活で潰れる私を放課後に受け入れてくれたとき。


先生はちゃんと師範の資格を持っているけど、書道を活かしたデザイナーが本業で教室は副業だから、あまり生徒がいない。

来られるときにおいで、と笑ってくれたのを覚えている。


最も、あまり生徒がいないのは、先生がかなり若いこともあるかもしれないけど。


先生は高校三年生で師範の資格を取ったので、書道の先生にしては珍しく二十代だ。


書道を習うような年上の人達は、他の教室に流れてしまっているらしかった。


だから、水曜日の夕方、墨汁の匂いが満ちる小さな部屋に私は先生と二人きりで、書道の傍ら色々な話をした。


正座が苦手なこと。

学校のこと。部活のこと。

好きなもの。

流行りの映画や音楽のこと。
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