好きです、が浮かんでも
教室は、先生の家の隅の部屋を使っている。


看板はなくて、教室があると口伝えにたまたま知った。


普通の家すぎて、初めは間違ったんじゃないかと恐る恐る訪れたものだった。


自転車を庭の端にとめて、一応インターホンを鳴らしてから玄関を開け、廊下を歩いて引き戸を引くと、いつも濃い墨汁の匂いがする。


部屋の扉をノックして開けると、先生が「いらっしゃい」と笑うのだ。


そうして、二人きりの書道教室が始まる。
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