好きです、が浮かんでも
「先生」


筆を置いて声をかけると、先生が顔を上げた。


「書けた? 見せて見せて」

「書けた、んですけど……」


立ち上がって半紙を持っていって、隣にしゃがむ。


文机の上に置いた半紙を見て、潰れた名前に気づいた先生が少し困った顔をした。


名前以外はせっかくうまくいったのに、これじゃ基準に満たなくて提出できない。


「これだけ小さいと、ちょっとうまく書けなくて」


自分の名前なのに、凛々香、と書くのが私はいつも下手だ。


「今回は四文字だからねえ」


課題は大抵二文字なんだけど、たまに四文字になる。今回は四字熟語。


そうすると、半紙を四等分するわけで、課題の字自体が一つ一つ小さくなるから、なるべく四文字を大きく書かないと格好がつかない。

でもそうすると、今度は名前のスペースがなくなって、何とか書いても名前がものすごく小さくなる。


名前を書くときは一文字の人が羨ましい。


……凛の字だけなら、大きく書けば何とかなるんだけどな。


狭いスペースに三文字入れるとどうしても字が小さくなって、凛と々と香の大きさを揃えて小さくしようとすると凛が潰れる。


なるべく筆を立てて細く書いてはいるんだけど、どこかバランスが悪いのが常だった。
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