好きです、が浮かんでも
「名字で書く?」


同じ三文字なのに、名字の佐々木はとても書きやすい。


でも、他の人は皆名前だし、佐々木より凛々香がいい。


「名前で頑張ってみたいです」

「そうだよね、素敵な名前だもんね」


うぐ、と思わず詰まる。


落ち着け落ち着け、お世辞だからこれは。特に意味はないから。


「じゃあ練習しよっか。ちょっと待って、すぐお手本作るね」


かたり、パソコンを取り出した先生に声をかける。


「先生」

「ん?」

「お手本は先生の字がいいです」


しばらくはパソコンのフォントでいいから。

今すぐじゃなくていいから。


できれば、名前のお手本は先生の字がいい。


『佐々木さん』


先生は私を佐々木さんと呼んだ。

初めから今に至るまで、一度も凛々香とは呼んでくれなかった。


りりか。たった三文字。


名前を呼んではもらえないのなら、せめて、先生の字で私の名前を書いて欲しい。
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