秘めるはずだった初恋
だけど、言葉を交わしたのは挨拶を除けば数えるほどしかなかった。


同じクラスだった二年の頃、落とした消しゴムを拾ってくれた時と、バレンタインデーで晴子ちゃんと繭ちゃんでクラス全員分のチョコを作って渡した時だけ。


「落としたで」
「あ、ありがとう」

「これ、よかったら食べて……」
「ええん? うまそーやなぁ!」


私は未だにその時の状況を気持ち悪いくらい鮮明に覚えている……。





「有理子!」

「ひゃっ」


突然、繭ちゃんに肩を叩かれて、私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。


「有理子、何度も呼んだのに反応遅すぎ!」

「ごめんね? 繭ちゃん」


私がしゅんと眉を下げて謝ると、二人の友人は無言で目を合わせたまま肩をすくめた。


ちょっと呆れているよね。


「あたし、有理子が心配なんですけど」

「有理子が一人暮らしって、怖いよね」


この二人はいつもそうだ。
私は少し抜けているみたいで、それが不安らしい。


「有理子、あんた絶対、家族と将来の彼氏以外の男家に上げちゃだめだからね!」


晴子ちゃんは私の方を指指しながら、強く言い聞かせるように言った。


「下手に上げると、“襲ってもいいよ”って相手は解釈するからね」

繭ちゃんの言葉に私はびっくりして目を丸くした。
大学生になるからって、男の人と関わる機会は変わらずないと思うから大丈夫だけど。


心配してくれる人がいるのは幸せなことだけれど、心配しすぎだって。


私は心の中で抗議をするけど、面と向かって言える訳がなく、笑顔で分かったよと頷いた。
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