職場恋愛
side 結


翌日、出勤する前に國分さんの元へ行ったらあからさまに嫌な顔をされてしまった。


それでも、怯まない。怯むわけにはいかない。

「昨日は本当にすいませんでした」

「んだよ、退職願は?」

「……いや、それはまだ…」

「はーーー。まだやめねぇの?迷惑だからやめてくれ。頼むからやめてくれ」


昨日溢れた涙が再び湧き上がって来るみたいに泣きそうになる。

「………」

「泣いて許されると思うな」

そんなこと思ってない。

「目障りだから早く消えろ」

「…………」

泣くな。泣くな。耐えろ、私。

コンコン

必死で堪えている最中にノックが聞こえた。

「失礼します。國分さん…え?どうしたの」

國分さんに用があったらしい逢坂先輩が私を見て心配そうに顔を歪めた。


「ちょっと國分さん、俺の後輩いじめないでもらえます?」

冗談交じりでも上司にこんなこと言えるなんてすごい。

「あ?こいつが悪いんだろ」

ほら、顔色変わったじゃん。

「それより國分さん、これ」

いや、切り替え早すぎ。

「は?なんだこれ」

すっかり仕事モードに切り替わった2人はさすがだなと思う。


「在庫確認してたらこれがあって。ケタ間違えてますよね?」

「当たり前だ。こんな在庫抱えきれるわけがない。誰だこれやったの」

「それが……」

「またこいつか?」

國分さんに指を差されたけど在庫とか発注はまだ教わってないから私じゃない。


「いえ、担当者か佐伯さんになってて。確認したら違うって。ワケ分かんないんですよ」


「ったく仕事増やしやがって。やったやつ見つけたらしばき倒す」

そう言って足早に去って行った國分さん。
本当に口が悪い。


残った逢坂先輩は困ったように笑ってこう言った。


「あの人怖いよね。でも大丈夫。今日は俺が荒木さんの専属マネージャーになるよう、國分さんに言われてるから。

全力でサポートします」


え…。
クビじゃないの…?


「また…迷惑かけるかも…」

「どんとこい!」

まだ私が喋ってるのに遮って胸を張った逢坂先輩。

「ただ、守ってほしいことがある」

あまりにも真剣な目で言うものだから緊張してしまうから、ゴクリと生唾を飲み込んで覚悟を決めた。


「以下の3点を守れなければ即刻マネージャー業務を放棄する。

1.分かんないことがあったらすぐに言う。
2.間違えてしまっても自分を責めない。
3.俺を頼って」

どんなルールかと思えば。
なにそれ。

全部私のためのルールじゃん。

意味分かんない。

「…っ…ぅう……先輩……ありがとうございます…っ…」

さっき堪えた涙が勢いよく溢れて来る。
こんな優しい人、私知らないよ。

「あと、先輩じゃなくてさんとかくんとかで呼んでよ。呼び捨てでもいいけど」

「……逢坂…さん」

「はい」

「よろしくお願いします」

「こちらこそ」
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