職場恋愛
ビール片手にあたしが作った晩ご飯をちょまちょま食べて今日のことを話す。


「家電ってなんであんなに空気悪いのかね」


奏太が野菜炒めを食べながらポツリと呟いた。

あたしはそんなに家電と関わらないからあんまり分からないけど…。
いじめとか陰口とかが多くて、出入りが激しいっていうのはよく聞く。

既に新人は3人やめてるって聞くし。


「こうちゃんいても空気悪いの?」


「なんか。こうちゃんがいるから余計に悪いっていうか。あ、そだ。こうちゃん脳しんとうで搬送された」


「は!?」


いや、なんの冗談。
救急車来たって、こうちゃんだったの!?


「家電の倉庫分かる?そこで前にゆーちゃんが閉じ込められて問題になってたのに、まーた同じ場所で今度はこうちゃんが倒れてたって。早く封鎖しろよな」


え、ゆーちゃん閉じ込められたの?なんで?
いや、それも気になるけど脳しんとうってなんで?


「大丈夫なの?」


「何時間も目覚まさなかったみたいだけど、脳しんとう自体は大したことなかったらしい。あの子普段からあんまり寝てないみたいでさ。脳しんとうをきっかけにぐーすか寝てたらしいよ」


え、ウケる。


「こうちゃんっぽいね」


「思った。あいつそういうとこあるから」


こうちゃん、かわいいな。笑









「てかさー、なんで野菜炒めしか食べないの?ほか美味しくない?」


野菜炒めのもやしをひたすら食べ続ける奏太に問う。

豚の角煮、頑張って作ったのにな。


「ん?逆。野菜炒め食べた?」


「え?」


逆って何?

そう言えば野菜炒めは奏太の近くに置いてあるからまだ食べてないや。


もやしとニラを口に運んで目玉が飛び出るかと思った。


「え、ねぇ、甘いんだけど」


「うん。知ってる」


「なんで言ってくれないの?」


ずっと食べてたくせに。


「いやー面白い味だなーと思って」


「食べれるなら食べて。あたし無理」


自分で作っておいてなんだけど。
甘い野菜炒めなんて誰が好き好んで食べるかって。

「んー。食べる」


こういう時に無駄に優しいんだよね。



「嘘だよ、作り直すから」


「いい。食べる」


「美味しくないでしょ?無理しなくていいから」


立ち上がってお皿を取ろうとすると真っ直ぐ見つめられて、不覚にもドキッとしてしまった。



「俺は超偉いけど、人が作ってくれたものに文句を言えるほど偉くない。未来も疲れてんだから座ってりゃいーじゃん」


久しぶりに名前を呼ばれてまたドキッとする。

この自信満々な態度とか、
真っ直ぐ見てくれる瞳とか、
ちゃんとあたしを見てくれる優しさが、

大好き。


あたしはあなたほど疲れてないし、リーダー様にはおいしくて健康なものを食べてほしいと思う。

だけど、
あたしが塩と砂糖を間違えても、
カレーのルーの分量を間違えても、
切ったはずのお肉が全部繋がってても、
肉じゃがに味を付け忘れても、
いつも最後まで綺麗に食べてくれる。

炊飯器のスイッチを押し忘れたって、
文句は絶対に言わない。

そんなあなたが大大大好きなんだよ。
奏太は知ってるかな?


「うん。ごめん。ちゃんと味見する…」


「うん、そうして。
あと塩と砂糖に名前書いといて」


「はい……」


もっとおいしいもの作れるように頑張るからね。
< 194 / 543 >

この作品をシェア

pagetop