職場恋愛
「これから家電に戻るの?」


心配そうに聞かれて首を振った。


「さっき、山野さんに会って落ち着いたら出ておいでって言ってもらって…」


「はーーーー。あのバカ。出ておいでじゃないよね。まったく。さぁ、事務所行くよ」


まだ泣き顔で顔パンパンだけど、りんちゃんさんは構わず私を事務所まで連行した。


「げっ鬼がいる」


事務所に入って一言。りんちゃんさんは私にだけ聞こえるように小声で呟いた。


「林、聞こえてるぞ」


けれど地獄耳らしい國分さんには聞こえていたらしい。


「えへへ…」


なぜか照れたりんちゃんさんに鼻で笑った國分さん。

わ、笑った…。


「林さん、どうかしましたか?」


國分さんのそばでパソコン作業をしていた高木さんが顔を上げる。


「ゆーちゃんの早上がり希望」


「えっ!」


元気よく挙手して発言したりんちゃんさんの言葉に驚く。


「あ、ほんとだ。その顔じゃ接客はちょっとあれだね…」


すぐに状況を把握したらしい高木さん。



「代わりにあたしが早出するから、今すぐ上がらせてほしいなーなんて」


りんちゃんさんはもじもじとお願いしてくれる。


「あれ?でも家電は…」


チラッと國分さんの顔色を伺った高木さんはいい人だと思う。


「さっさと上がって逢坂にでも慰めてもらえ」

航の家に泊まってること知ってるような言い方…。
まさか、ね。
さすがにそこまで知ってたらストーカーでしょ。


「だそうですよ。林さんも17時で大丈夫です。荒木さん、ゆっくり休んでください。家電に立候補してくれてありがとうございました。無理はしなくていいですからね」


國分さんも高木さんも、こんな時ばっかり優しくしてくれちゃって。

また泣きそうじゃんよ。



コンコン


泣きそうになってるタイミングで誰か来たし。

「高木ちゃ…あ?なにしてんの?」


この人はよく遭遇するなぁ。


「今度は山野くんか。なんか忙しいね」


「あんたこそなにやってんの、仕事しなさいよ」


いわゆるジト目で山野さんに冷たく言ったのはりんちゃんさんだ。


「どう見ても仕事中だろ。あ!また泣いてるし!!なんだ?お前か?」


言われて見れば山野さんはたくさんの書類を手に持っていて、私の顔を見るや否やりんちゃんさんを責め立てる。


「どうしたらそうなるの!?あんたの思考は猿以下のミジンコだね!」



「じゃあお前か!!」


山野さんが犯人にしようとしたのは高木さんの横にいらっしゃる噂の鬼さん。

國分さんを相手にこんな言葉遣い…。
すごい、すごすぎる。


「その口の悪さどうにかならないのか」


怒るかと思ったら意外と呆れてるだけで拍子抜けする。


「嫌いな相手に綺麗な言葉使ってどうすんだよ」


「はいはいそうですね、用がないなら国へ帰れ」


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