職場恋愛
side 青葉






午前4時、家電の休憩室に残されたメンバーは唖然としていた。



安井を助けたように見えた高木マネージャーは、助けたわけではなかったらしい。

その場にいたメンバーは間違いなく救世主だと思った。俺も含めて。みんな、そう思ったに違いなかった。


それなのに、見事に期待を裏切られてしまった。





へなへなしてて誰にでもペコペコして、物腰の低いちょっと抜けてる人というイメージが定着していたはずの高木マネージャーは作り物だったらしい。



『もうちょっと賢くなれないの?』


寺内の腕を変な方向に曲げながら安井に満面の笑みを向けた高木マネージャーは、その表情のままつらつらと非情な言葉をぶつけていた。

けれど、國分さんや寺内なんかとはまた違って冷静、というか落ち着いて普通に話しているようだった。


『君にもう少し賢さがあればなーんにも壊れなかったのに』


『リーダーなのに、情けなくない?入社2年の逢坂くんと並ばれて、悔しくない?』


『だっれも付いてきてないって、虚しくない?リーダーの中でもいっちばん劣ってるよねぇ?恥ずかしくないの?』


『別に、リーダーが全てじゃないけどさ。可哀想だなーと思って。山野くんでも誰でも同じだけど、みんな無能すぎて。見てて疲れちゃうよ』


『君がしっかりしてないせいで荒木さんがこっちに回されて。正直迷惑極まりないよ。ちゃんと育ててから回してもらえないかな?恋愛事情で余所に回すって何事?馬鹿なの?ねぇ、安井くん、馬鹿なの?』


『遊んでんじゃないんだよ』


『なーにが自分も精一杯やってるだよ。厄介者追い払ってやりやすいようにしてるくせにさ。休みたいときに休んで責任そっちのけ。中身すっからかんだよねぇ』


『分かってんの?自分が1番使えない給料泥棒だってこと』


『指示も出せない、判断もできない、そんなんだから忙しいんでしょ?君だけが』


『忙しそうに動き回ってるだけで実際は何もしてないじゃん』


『余計な動きが多いんだよ、要領が悪い、頭が悪い。忙しいと思い込んで満足したいんでしょ?汗水垂らして動いてる自分が好きなんでしょ?これだから下の人間が死んでいく。交代したらどう?まだ逢坂くんの方がリーダー向いてるよ』


『ま、でもあの子もリーダー性はないよね。ネガティブだし気が小さいから』


『ねぇ、やめたらどう?転職』


『君向いてないよ。何年やってんの?』


『リーダーって肩書きに縋ってるだけじゃ、リーダーにはなれないよ』


終始満面の笑みで畳み掛ける姿は奇妙で、気持ち悪いと思った。

あんな、へなへなした柔らかい笑顔の高木マネージャーは、心の中ではそんなことを思っていたなんて。

そりゃ、そうか。
マネージャーだもんな。


ちょっと抜けてるとか天然とか、そんなんでなれるようなものじゃない。


山野がいるから。山野の存在がでかいから、予想すらできなかった。


どうして逆じゃないんだろうって何度も思った。



ちゃんとキャリアがあってマネージャーなんだ。
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