職場恋愛
「結!」


ドスドス地団駄を踏みながらトイレの方へ一直線に歩いていたら航に呼び止められた。


なんで付いてきてんの、トイレは男子禁制なんだけどそんなことも知らないの!?



「何?りんちゃんさんのとこいてあげなよ」


あー私、すっごい嫌な女。


「なんで怒ってるの?」


はぁ。


「別に怒ってない。トイレに行きたいから焦ってるの」


「絶対怒ってるよね」


しつこい。
本当はトイレなんて行っても何も出ないけど、お願いだから1人にして。


「怒ってないってば。りんちゃんさんが心配ならりんちゃんさんの所に行って?私は1人でトイレできるから」


「りんちゃんりんちゃんって、あっちにはつり目さんがいるから大丈夫だよ。ここで待ってるからトイレ行ってきて」


なんで!トイレ待ちとか鳥肌なんだけど。



「あぁ、もう!トイレは嘘!1人になりたいだけ!お願いだからあっち行ってて」


うざったい!


「やだよ、なんで怒ってるのか言うまで離れない」


言ったら離れてくれるのね。はいはい言いますよ。


「山野さんがいないからってりんちゃんさんにベッタリなのが嫌なだけ。好きなら正々堂々と戦いなよ。てかそれって私の彼氏でいる意味ないんじゃないの?それかりんちゃんさんのボディーガードにでもなればっ?ずっと一緒にいられるよ」


「ベッタリって…。ねぇ結、なんでそういう風に考えるの?」


そういう風ってどういう風?
見たままを言っただけでしょ?



「彼女がいるのに他の女に目移りするような人は男としてありえない」


「ちょっとの間じゃん」


「ちょっとだったらキスしてもいいんだ?」


なんで私こんなこと言ってんだろ。
最低のクズ女だ。


「結。そういうこと言ってるんじゃないじゃん。結だってつり目さんと2人でそそくさと降りて行ったし、高所恐怖症同士ゆっくり降りようって、ダメなの?」

ダメじゃないよ。分かってる。
でもね、彼女の目の前で他の女の人に優しい顔見せたり優しくして妬かない女はいないんだよ。


「それにしては遅すぎじゃない?どうせ美男美女って騒がれながらイチャイチャしてたんでしょ?」


「…何言ってんの?」


「私といる時より楽しそうに笑ってたじゃん。よかったねー山野さんいなくて」


「ねぇ」


「私は別に気にしないからさ、りんちゃんさんと付き合っちゃいなよ。山野さんに秘密で。あ、でもそれじゃバレた時が怖いかー」



「………怒るよ」


もう怒ってるくせに。


「全然怖くないから。言っとくけど、私は見たままの感想を言ってるだけだからね?あなたが楽しそうにしてたから、その方があなたの幸せになると思って言ったの。ただの親切心だから」


「……俺のことは悪く言ってもいいけどさ。りんちゃんの気持ちを知らないのに勝手に思い込むのは本当にやめてほしい」


何、それ。りんちゃんさんの気持ち?
ここにきて、まだりんちゃんさん?

しかも庇うって。ありえない。


全然分かってない。
本当に分かってない。


このタイミングで他の女の名前を出すなんて。
実は恋愛初心者だったの?


見かけによらずってやつだわ。
いかにも彼女沢山いますって顔してるのに。



「だから!そんなにりんちゃんさんが好きならあっち行ってってば!もう大っ嫌い!!死ねばいいのに!!」




腹の底から大きな声を出して喚き散らした挙句、猛ダッシュでトイレに駆け込んでしまった。



なんでこんなに情緒不安定なんだろう。
最悪。



………嫌われちゃった。
こんなはずじゃなかったのに。
死ねばいいなんて、思ってないのに。



本当にりんちゃんさんと付き合っちゃったらどうしよう…。
本当に死んじゃったらどうしよう……。



もう…最悪…。



「うぅ……っ………」




私が死んじゃえばいいのに。
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