職場恋愛
side つり目



あまりにもゆーちゃんが楽しくなさそうだから大阪食べ歩き旅を最後に旅行を中断することを決意した俺たちは寄り道することもなくまっすぐ高速道路を走っていた。



「もしもしー?ミジンコー?」


音楽を流すでもなくゆーちゃんと話すでもなく、静まり返った車内にりんの声だけが響いた。



「今帰ってるとこなのー。やっぱ3人じゃ無理あったわ」


『つまんない』と言っているようにも聞こえるりんの言葉は確実にゆーちゃんを傷付けていると思う。

真横で聞いてんだぞ?


今朝あんだけ俺に偉そうな口叩いてたやつが何言ってんだよ。



「なにさ、あんた楽しそうじゃない」


髪の毛をいじりながらブスくれているりん。



「なに?聞こえなーい」



ミラーで恐る恐るゆーちゃんを確認してみたら窓の外を悲しそうに見ているだけだった。


「………は!?!?!?なんて!?は!?」



うっわ、声でかっ。



「誰がマネージャーになったの!?!?!?」


マネージャー?



「ちょっと待って聞こえないスピーカーにしよーーーっと!!」


絶対聞こえてるくせにわざとらしくスピーカーにしたから山ちゃんの声と店内のBGMが聞こえる。
こんな時間なのにまだ店にいるのか。



『てめぇ聞こえてんだろ』


「聞こえなかった、早く、もう1回」



『だから、寺内が異動になって俺が家電マネになったって何回言わせんだよ!』



「え」
「やーばーくーなーい??」



「ちょ、誰が携帯リーダーやんの!?」


つい割り込んでしまう。



『今のところ森ちゃんだって』


「なんで今!?俺らいないのに!」


「あんたはいてもいなくても一緒でしょ、使えないただのキツネなんだから」


「おいメスゴリラ、木から落とすぞ」



「どこに木なんてあんのよ、バカね」




『だから、忙しいから暇電なら3時間後にしろ』



「他になんか変わったことないの?」


『んなもん来たときでいいだろ』


「あ、あるんだー。ちょっとくらい教えなさいよ」


『安井が特別に異動。こうちゃん1人で家電リーダー。中、家電に異動。御影が便利屋の一般に降格。便利マネが國分になるかもしれない。などなど盛りだくさんなんでね、忙しいんですわ』



超早口。



「うーわ。総入れ替えって感じー。高木ちゃんは?普通?」


『あぁあぁ普通だよ切るぞ』


「待って待って!」


『なに?』



なんだかんだ待ってくれる山ちゃんいっけめーん。



「…昇格おめでと」



『…当たり前だろ。安全運転で帰れよ。じゃーな』




なんだかんだカップルなんだな。うん。



通話を終えたりんの幸せそうな顔ったらないわ。
同じ部署で働けなくなること分かってんのかな。
それより彼氏の昇格の方が嬉しいとかそんな感じ?



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