職場恋愛
「そろそろ行かねーと。じゃ、あとでな」

先に戻った島田先輩を見送って2本目のタバコを取り出す逢坂先輩。

何を考えてんだか知らないけど八方美人って闇抱えてるって言うからあんまり関わらないでおこう。


挨拶せずにドアを開けて階段を登った。

少ししてすぐ後ろから足音が聞こえて来た。

まさか、逢坂先輩?

そっと振り返るとスマホをいじりながら後を付いてくる逢坂先輩が真後ろにいた。


はぁ。

「あの、今吸い出したばかりですよね?なんで付いてくるんですか?」

「ん?別に深い意味はないよ」

あー。めんどくさい。
話すのもイライラするのもめんどくさい。


休憩室に続くドアを開けると集まる視線。
まだオープンしていないから、ここで化粧をする人や仮眠をとる人がいる。

この視線にも慣れた。

口々に話される私の陰口やミスについての噂。
精神年齢幼すぎかよ。


と思ったところまではいつも通り。

私が休憩室にいる限りはずっと続くその声が一瞬で消えた。


「逢坂くんおはよー!」
「逢坂、これ新作だって」
「おせーよ!タバコばっか吸いやがって!」

あー、はいはい。
みなさん得意のごますりね。

逢坂先輩に嫌われないように、気に入られるように。
きっもちわる。


「逢坂くん残業明けのオープンきつくない?新人のミスで残業ってクソ迷惑だよね」

消えたと思った陰口が再び始まる。

「逢坂も気の毒だなー。たまたま居合わせたからって2時間もエアコンの説明させられて」

なんとでも言え。

「使えない新人への憂さ晴らしでもしにパーっと飲み行こうぜ」

「まあ」

みんなが私への文句を言い合っていると、逢坂先輩は急に大きな声を出した。

その声に反応して口を止める先輩たち。
逢坂先輩は王様かって。


「新人なんだからミスくらいするだろうな。俺もそうやって育ったんだし」

大きな声で言い放った言葉はまるで私を庇っているよう。

「あ、あはは、ミスしない新人なんて、いないもんね…」

すーぐ手のひら返す先輩たちを見てると笑えてくる。
< 6 / 543 >

この作品をシェア

pagetop