職場恋愛

「おまたせ」

ものの15分で作ってくれた晩ご飯は15分クオリティーとは思えないほど豪華だった。


卵焼き、お味噌汁、ほうれん草のお浸し、豚肉の生姜焼き、ご飯。

「15分でどうやってた作ったの！？」

「来る前に下準備してたから全然だよ」

あ！なるほどね。

向かい合わせで座って2人で「いただきます」と手を合わせて卵焼きから食べてみると、ほんの少し甘いけど醤油の味もする優しい味で、心が温かくなるようだった。

「豚肉は疲労回復にいいんだよ。たくさん食べて」




さりげない豆知識のような言葉なのに、
なぜか涙腺がやられて、涙が出そうになる。


「ごめん、お口に合わなかった？」

「ううん…違うの…すっごく美味しい」


航のシンプルな優しさが、今はすごく心にしみる。


堪えきれず涙を流す私を見てお箸を置いた航。
急に泣き出して、迷惑だし困らせてるよね。


「結、今日何があったの？」


私の隣に移動して来てくれて話を聞いてくれようとする航は優しい。


「…店長代理に怒られたのも嫌だったんだけどね」

「うん」

「家に帰っても責められるだけで、すごく嫌だったの」

「うん」

「私が入社してから今まで、お母さんやお父さんに褒められたことが一度もないし、いつもクビになる、再就職できないよって言われて」

「うん」

「そんなの私が1番分かってるって反抗して。今日も喧嘩して来ちゃった」

「そっか。…辛かったね」

航の優しい声が心に直接響いて涙が止まらない。
こんなに優しく話を聞いてくれる人がほしかった。
ずっと、ずっと、ほしかった。


「航にも迷惑ばっかりかけて、何もできない自分が本当に嫌い」


「俺は迷惑だと思ったことないよ。本当に頼ってほしい。仕事でも、そうじゃなくても」


付き合って2日目なのにこんな優しくて。
どうして私なんだろう。










「俺は知ってるよ。結がいつも頑張ってること」

「…っ…そんなことない…」

もろに泣き始めてしまった私の肩を抱いてくれる航は頼もしくて、私に安心を与えてくれた。

「慣れるまで大変だけど、一緒に頑張ろう」

どこまでも優しい航。


「…うん。ありがとう」


航は溢れる涙が止まるまで肩を抱いてくれた。