ヘップバーンに捧ぐ

いつものおちゃらけた声とは、違う。
本気で、心配してくれている声だ。
ちょっと調子が狂う。

『咲良ちゃんの体が、一番心配なんだ。
本当は、抱えている仕事をもっと他に振って欲しいんだ。

他の人は、頼りにならない?仕事任せられない?』
 
「いえ。
そういうことは、決してありません。」

『そうだろ。
何でも一人で頑張っちゃうのは、咲良ちゃんの長所だ。けれど、短所でもある。
人に頼るのは、悪いことじゃない。
手が空いてる人に仕事を振るもの、社会人には必要な力だよ。
咲良ちゃんには、わかってくれるよね?』

確かに、私は何でも一人でやろうとしてしまう。
決して、任せられないとかではない。
部の皆さん、スキルフルな方たちばかりだ。

単に私が人に、お願いすることが苦手なのである。

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叔母にも、よく怒られた。

叔母が出張の時、
『何かあったらすぐに遠慮なく電話しなさい。』
と言われていたが、心配をかけたくなくて、
高熱があっても知らせなかった。
時間が経てば、治るだろうそんな軽い気持ちでいたら、
学校で、倒れてしまった。
結果、肺炎に罹っていた。

気が付いたら、病院にいて、叔母が泣きながら側にいた。
『気づいてあげられなくて、ごめんね』

結局私は、叔母に迷惑を掛けてしまった。
「紗英ちゃんは、何にも悪くないよ。
私の体調管理が悪かったせいだよ。
もう、大丈夫だから、
紗英ちゃん、お仕事戻って!』

『あんた、いい加減にしなさいよ。
私言ったよね?遠慮せずに、電話しなさいって
あんた、何聴いてたの?
多分、あんたのことだから
あたしに心配掛けないようにしたんでしょ?
病人に言うことじゃないけど、
バカなの?
たかが、風邪って思っても
命を落とすこともあるのよ!』

「……ごめんなさぃ」

『咲良にとって、あたしは何?』

「大切な、家族だよ」

『ちゃんと分かってるじゃない。
あんたに、子供なのに我慢癖付けたのは
兄さん達、あたし含め、大人の責任よ。
本当に、ごめんなさい。

もう、我慢しないで。
辛い時は、辛いって言っていいんだよ。
苦しい時は、苦しいって言っていいんだよ。
寂しい時は、寂しいって言っていいんだよ。

だって、家族じゃない。
一人で何でも、抱え込まないで。
声に出しにくかったら、メールでもいい
何でも、咲良の思った感情全てを教えて?

次からの、約束ね』

「………紗英ちゃん
寂しかったょ……一人やだょ……」
こんなに、泣いたことは
産まれてすぐぐらいかもしれない。

どこに、溜めてたのかわからないぐらい
泣いた。

『咲良、辛かったね。
辛いのに、一人で此処まで頑張ったよ。
もう、一人にしない。
怒ってごめね………
もう、大丈夫よ。』

涙を思いっきり流したせいか、
身体は辛いけど、心は軽くなった。
それから泣き疲れ、眠ってしまったけど、
紗英ちゃんが、ずっと手を握ってくれていたから
優しい温度がとても心地よかったことは
忘れない。

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