ヘップバーンに捧ぐ
帰りも、専務の愛車にお邪魔した。
『いゃ〜、俺も久しぶりに
あんなに食ったわ』
出てもいない、お腹を腹出たわーと言いながら
ぽこぽこ叩く、専務。
「全部、本当に美味しかったです。
専務、
本当に今日はありがとうございます。
おっしゃる通り、今日は
家に帰って、あとは寝るだけでした。
体調管理も、仕事のうちですよね。
大事なこと、忘れてました」
『オォッ!
どうした、今日はデレが多いよ』
「何です?デレって。
一つ気になってるんですけど、
専務って、『俺』って言うキャラ設定でしたっけ?」
専務は、ご自身のことを『私』か『僕』で
表現してたはず。
だから、女子社員の中では
王子様キャラで通っているのだ。
白馬が似合う〜♡
お城に住んでそぅ〜♡
などなど、女子の妄想は尽きないようだ。
決して、『俺』の一人称は使わ無い。
『あぁ〜、わかってた?
俺、王子キャラじゃ無いよ。
普段、家族とか気の置けないダチとかはの前では
こんな感じ。
咲良ちゃんには、キャラ捨てて素の自分
見て欲しくてさ』
そう言うことを、さらっと言わないで!
対処に困る。
でも、専務の仕事は実に激務だ。
それでも笑顔を絶やさないのは
すごいことだと思う。
どんな嫌味でも、笑顔でサラリとかわしてしまう。
社長の息子って言うのもあって、
よく思わない社員、重役もいる。
「王子キャラ、疲れませんか?」
『そりゃ、疲れるよ。
けれどさ、俺が笑顔でいることで
会社の皆んなが、気持ちよく仕事してくれるなら
それがいいんだ。
まぁ、舐められたら終わりだけどな。
そうは、させねぇよ。
しかも、癖みたいなもんだからさ、
気にすんな、ありがとな心配してくれて』
……頭を撫でられた。
いや、違う。そうじゃ無い!
しっかりしろ、咲良!
『アワァァア、やめて下さい!
ほら、前見て、運転!』
『その切り返し、おかしいって
ハハハハッ
あのさ、2つお願いがあります』
????
「何でしょ?私が出来る範疇でお願いします。」
『咲良ちゃんしか、出来ないことだよ。
一つは、ふたりっきりの時は、
専務じゃなくて、下の名前で呼んで欲しい。
二つ目は、今から、ついてきて欲しいところがある。今こっからそんな遠くないし、
明日も仕事だけどそんな遅くはならないから』
「二つ目は、まだ、9時前なので大丈夫ですけど、
一つ目は、ちょっと…」
下の名前って、それはさすがにキツイよ
『無理にとは、言わないけどさ、
専務って言われっと仕事抜けないんだよ。
今完全、プライベートだからさ』
確かに、そうだわ。
プライベートで専務って言われると
気が休まらないよね。
『分かりました。翔駒さんと呼ばせてもらいます。』
『そんなサラッと、言われっと…
心臓持ってかれるわ。
破壊力半端ねぇ。』
「はいっ?
何か、あたり真っ暗じゃありません?」
何だか、けもの道に見えてきた。
この大都会には、ありそうもないところだ。
『お楽しみは、これからさ。
もう少しで着くからね。
よしっ、到着!降りて降りて!』