ヘップバーンに捧ぐ
少し、私の話をしていいだろうか。

私は、忙しい両親の代わりに
叔母に育てられた。

その叔母は、
大のオードリ・ヘップバーン好きである。
復刻版の特別上映された
「ローマの休日」
を大学生の時見た事で、どハマりしたそうな。


私の幼少期の最初の記憶は、
「ローマの休日」の
オードリー演ずるアン王女の
このセリフは、どうだ
この場所は、どうのこうの
熱心に解説、説明されていた所から始まった。

叔母は、オードリーの演技だけでなく、
彼女の生き方を愛した。

世界大戦の渦に巻き込まれ、
愛する家族を亡くし、
自身も命の危険に晒されながら、
1993年63歳で
生涯を終える最期の時まで、
笑顔を絶やさず、愛することを惜しまなかった。
そして実に、
我が子含め世界中の子供たちを愛した。

叔母と夕飯を共する度、
今日のオードリー小話が、始まる。
私は、「へー、なるほど、ふーん」
これしかほぼ返していなかったと思う。



そんなの叔母との日々は
私が高校2年生の夏に終わる。

突然の事だった。
道路を飛び出した、子供をかばって
車に轢かれ、亡くなった。

その最期の時まで、
オードリーに、憧れ、尊敬し、
心から愛したのだ。

叔母とケンカする度、私は、
「この、オードリーオタク!」
と言った。しかし、叔母は、
『オタクの何が悪いの?
心から愛せるもの、人、
何かがあるって、
実に素晴らしくて、貴重な事なのよ。
あなたも、
心から愛せる何かを見つけなさい。』
と言われた。

私の基本は、
両親のこともあり何かに、
期待して持つことが嫌いだ。
それが、何だ。

ましてや、恋愛事なんて
一時のまやかしみたいなものだと思う。
恋愛に、どっぷり浸かるなんて、論外。
恋人がいなくても、
特に生活に支障はない。
このまま、最期まで、
独り身でもいいかなと最近思う。

けれど、近頃
私の周囲200メートル圏内が、
おかしい。
何で、奴は私を構うのだ?
毎朝の電話は、何だ?
専務取締役なら、仕事をしろ!
職権乱用だ!
1回の通話料を蔑ろにしてはならないぞ!(実際は知らないけれど)

と、とにかく、離れろー!

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